琉球新報「日米廻り舞台」取材班『普天間移設 日米の深層』(青灯社 )に、海上保安庁の佐藤雄二長官について次の一節がある。
〈政府内では反対派住民の排除に向けた”海上封鎖”も検討されている。関係者は「海上にバリケードを張り、シュワブの沿岸に入るのを捕まえることを検討している。米側とも摺り合わせて刑特法を適用する」と具体的に語った。官房長官の菅義偉が海上保安庁に対し、取り締まりの徹底を指示しているという。
刑特法の適用には伏線がある。霞ヶ関で「三度の飯より人事が好き」(官邸筋)と揶揄されている菅は、これまでも人事権を使って官僚ににらみを利かせてきた。その菅が13年夏、海上保安庁長官に抜擢したのは海上保安官出身の佐藤雄二。生え抜きの現場出身者起用は初めてで、首相安倍晋三の意向も働いたとされる。
「佐藤は菅に恩がある。指示には従わざるを得ない」。関係者は、これまで反対派住民の取り締まりに積極的でなかった海保も今後本格的に乗り出すとの見方を示した〉(133~134ページ)。
海上保安庁の長官ポストはそれまで、国土交通省から出向したキャリア官僚の指定席になっていたという。現場の生え抜きとして〈抜擢〉された佐藤長官からすれば、海上で抗議する市民に海保が暴力むき出しの弾圧を加え、長官自ら沖縄メディアの不信煽りを行うのも、安倍首相や菅官房長官への恩返しというわけか。
現場の保安官たちは上意下達の命令系統で動いている。上からの命令があれば、保安官たちはカヌーを転覆させるし、巡視艇やゴムボートで抗議船に体当たりもする。現場で跳ね上がる保安官も一部にいるだろうが、暴力を命じているのは現場の指揮官であり、さらにその上には首相官邸の意思がある。
海保の暴力は安倍政権が沖縄にどのような姿勢で臨んでいるかを示すものだ。現場に出ている保安官には沖縄の若者も多い。彼らに暴力的弾圧を命じ、対立と混乱を生じさせて、刑特法や公務執行妨害の適用を狙っている親玉たちこそ、怒りを持って糾弾しなければならない。
いま暴力をふるわれているのは、海上やキャンプ・シュワブのゲート前で抗議をしている市民かもしれない。しかし、その暴力は安倍政権の強権的な体質、指向に根ざしている。戦争をする国に向けて突っ走っている安倍政権の思惑通りにことが進めば、暴力むき出しの弾圧体制は日本社会全体を覆い尽していく。
辺野古で起こっていることは、すでに日本の各地で起こっているのであり、海保や機動隊の暴力的弾圧を許せば、集会や表現の自由は失われる。反戦・反基地運動が圧殺されたとき、戦争は目の前に来ている。そのときはもう声を上げることもできない。そういう歴史をくり返してはならない。