1月7日付琉球新報に佐藤優氏が、鈴木宗男氏を党首とする新党大地・真民主を沖縄に売り込む提灯評論を書いている。佐藤氏は近刊の『週刊金曜日』で、これまで批判してきた下地幹郎・国民新党幹事長と対談しているが、なるほど、政権与党の立場に立つ少数政党として、新党大地・真民主と国民新党との間で関係作りが行われているのだろうな、と想像させる。それはさておき、気になったのは次の一文である。
〈野田政権が、辺野古移設を断念するのは時間の問題と筆者は見ている。そのとき普天間固定化をどう防ぐかについて、今から布石を打っておかなくてはならない〉
佐藤氏は、田中聡前沖縄防衛局長の暴言事件後、〈力によって辺野古移設を強行する〉〈仲井真弘多知事の翻意を促す〉というの二つのシナリオが不可能になったことを〈外務官僚、防衛官僚はよく分かっている〉とし、〈それだから、普天間固定化という第三シナリオに向けて舵を切っている〉とする。
田中前局長の暴言の一つにも、審議官級の話として普天間基地固定化への言及があった。辺野古新基地建設が頓挫したときに、その責任を沖縄側に転嫁し、外務省・防衛省の官僚たちが普天間基地の固定化を策するのは分かりやすい話だ。
しかし、だからといって日本政府が辺野古「移設」強行を不可能と見なし、〈野田政権が、辺野古移設を断念するのは時間の問題〉という状況に至っているかといえば、私はまったく違うと判断している。同時に、そのような楽観論が沖縄で広まり、反対運動が弱まっていくことがあれば、極めて危険なことだと警戒している。
私たちは希望的観測や主観的願望を排して現実を見なければならない。
〈沖縄防衛局は6日、県に提出した米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた環境影響評価(アセスメント)の評価書について、県から指摘された書類の欠落部分を提出した。県は同日午後、書類を確認し、飛行場事業分を受理した。5日には埋め立て部分事業分を受理しており、すべての受理手続きが完了した。今後、知事意見書作成のための本格的な審査に入る〉(1月7日付琉球新報)。
辺野古新基地建設に向けて歯車は確実に回っている。米国の意向を受けて環境アセス評価書の年内提出にこだわる日本政府に対し、仲井真知事はそれを容認した。事務手続きは拒否できないというのなら、年明けからの仕切直しを主張すればいいのであり、仲井真知事が田中暴言問題と県議会決議を盾に年内提出を拒否すれば、政府もごり押しはできなかったはずだ。
しかし、仲井真知事は一括交付金のほぼ満額回答と引き替えに提出を容認し、そのため県民は年末年始にもかかわらず県庁につめかけ、阻止行動や座り込み行動をとらざるを得なくなった。田中前局長の暴言という沖縄にとって屈辱的な事件が起こったにもかかわらず、評価書の年内提出・受理が成立したのは、政府と仲井真県政の共犯によるものであり、沖縄防衛局による未明の評価書持ち込みの異常さや、形式上の不備を強引に押し切ったことを含めて、政府と仲井真県政はともに厳しく批判されなければならない。
私たちが直視しなければならないのは、ここまで強引にことを進めていく政府の姿勢であり、最後は政府の意向に従っていった仲井真県政の姿勢である。国の出した環境アセス評価書に対して、仲井真知事は厳しい意見を言い、「県外移設」を主張するかもしれない。しかし、そうしたからといって政府がそれを受け容れ、辺野古「移設」を断念して「県外移設」に政策転換することが考えられるだろうか。知事の意見は形式的に処理され、埋め立て申請に向けて歯車がまた一つ回っていくだけではないか。年末・年始の県庁での状況を見ながら、そういう懸念と不安を深めた人は多いはずだ(だから知事意見はどうでもいいというわけではなく、市民の意見を反映させる追求は必要だが)。
佐藤氏が書くように〈野田政権が、辺野古移設を断念するのは時間の問題〉なら、政府・防衛省はここまで強引にことを進めはしない。辺野古や名護、沖縄の現場の状況を自分の目で見たこともないヤマトゥの評論家が考えるほど、ことは生やさしいものではない。政府が〈辺野古移設を断念する〉か否かは、沖縄の反対運動がどれだけ高揚し、体をはってでも抵抗し抜くだけの強さを持ち得るかどうかにかかっている。強行しても大した抵抗は起きず、他の基地に影響を及ぼすほどの事態にはならない、と判断すれば、政府は埋め立ての代執行をしてでも建設を強行してくる。
現時点で政府が強行の意思を捨てている、と考えるのは早計であり、そういう認識が沖縄で広がり油断が生じるのは危険なことだ。「移設」強行というシナリオを追求しつつ同時に普天間基地固定化というシナリオを探るのは何も矛盾しない。むしろ、ごく当たり前の二面作戦にすぎない。
〈野田政権が、辺野古移設を断念する〉というのは、2010年5月28日に交わされた日米合意を日本政府が破棄することを意味する。それが〈時間の問題〉というほど短期間に起こる根拠を佐藤氏は具体的に示していない。ただ、外務・防衛官僚の動向から推測しているだけである。しかし、大統領選挙を11月に控えたオバマ大統領に対し、野田政権が一方的に日米合意を破棄することはあり得ない。米国議会のグアム移転予算削除はあるにしろ、オバマ政権は日米合意を進める方針を維持しており、だからこそ野田政権は環境アセス評価書の年内提出を強引に推し進めた。
野田政権が辺野古移設を強行するにしろ断念するにしろ、それはオバマ政権の意向を無視しては行われない。むしろそれに隷属した形で進められるだろう。日米合意の見直しを米国政府が先に言いだし、それを受ける形で日本政府が辺野古「移設」断念を検討する、というのが現在の日米関係を見れば考えられる形である。野田政権からすれば、米国政府の提案を受けるという形にすることで、自民党・公明党の批判をかわすことができる。沖縄の主張を受けて米国政府にもの申すことなど考えられないのが、悲しいかな、日本政府の実態である。
米国議会の動向や米軍の東アジアにおける新たな軍事戦略などの動きがあるにしろ、オバマ政権が近々に「日米合意」を見直し、辺野古移設からの転換を打ち出す動きがあるようには見えない。そもそも、オバマ政権にとって普天間基地の「移設」問題は、どれだけの緊急性と重みを持つものとしてあるだろうか。
日本国内を見ても、衆議院の解散・総選挙が早ければ4月にも行われる可能性がある。沖縄では2月に宜野湾市長選挙、6月に県議会選挙が行われる。これから半年は政局が流動的となり、〈辺野古移設断念〉というような大きな政治的影響を与える判断はむしろ回避、先送りされるだろう。一連の選挙の結果によっては、野田政権の方針が変わるどころか、政権そのものが変わる可能性もある。
その間、環境アセスの作業は進められ、外務・防衛官僚たちは辺野古「移設」強行と普天間基地固定化の二面作戦を進めていくだろう。それに対して、そのいずれも許さず、普天間基地の無条件返還を実現する力を、沖縄の内部から作り出していく必要がある。その時、仲井真知事の応援をして「県外移設」を後押ししていくという発想で運動作りをしたら、反対運動は足下をすくわれるだろう。日米両政府が恐れているのは、沖縄の民衆が自ら行動し、基地の機能が正常に保てない状態に陥ることだ。このままではそうなる、という判断をして初めて米政府は動き出す。辺野古新基地建設だけでなく、普天間基地の固定化も阻止するためには、沖縄を米軍にとって居心地の悪い場所に変えていく以外にない。
野田政権が近いうちに〈辺野移設古を断念〉するかのような幻想を煽るのは、そのような反対運動の盛り上がりを阻害するものでしかない。年末年始の県庁での座り込み行動を、埋め立て強行に対する抵抗の前哨戦ととらえ、反対運動の力量、動向を分析している目があることを忘れてはいけない。健闘したが最後は押し切られた、ではダメなのだ。これならやれる、押し切れる、と判断すれば、政府は力尽くでやってくる。それに対抗する力を、沖縄県民は自らの行動として示せるか。最後はそれが問われるし、その力を作り出すために今が重要な時期であることを押さえたい。
〈野田政権が、辺野古移設を断念するのは時間の問題と筆者は見ている。そのとき普天間固定化をどう防ぐかについて、今から布石を打っておかなくてはならない〉
佐藤氏は、田中聡前沖縄防衛局長の暴言事件後、〈力によって辺野古移設を強行する〉〈仲井真弘多知事の翻意を促す〉というの二つのシナリオが不可能になったことを〈外務官僚、防衛官僚はよく分かっている〉とし、〈それだから、普天間固定化という第三シナリオに向けて舵を切っている〉とする。
田中前局長の暴言の一つにも、審議官級の話として普天間基地固定化への言及があった。辺野古新基地建設が頓挫したときに、その責任を沖縄側に転嫁し、外務省・防衛省の官僚たちが普天間基地の固定化を策するのは分かりやすい話だ。
しかし、だからといって日本政府が辺野古「移設」強行を不可能と見なし、〈野田政権が、辺野古移設を断念するのは時間の問題〉という状況に至っているかといえば、私はまったく違うと判断している。同時に、そのような楽観論が沖縄で広まり、反対運動が弱まっていくことがあれば、極めて危険なことだと警戒している。
私たちは希望的観測や主観的願望を排して現実を見なければならない。
〈沖縄防衛局は6日、県に提出した米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた環境影響評価(アセスメント)の評価書について、県から指摘された書類の欠落部分を提出した。県は同日午後、書類を確認し、飛行場事業分を受理した。5日には埋め立て部分事業分を受理しており、すべての受理手続きが完了した。今後、知事意見書作成のための本格的な審査に入る〉(1月7日付琉球新報)。
辺野古新基地建設に向けて歯車は確実に回っている。米国の意向を受けて環境アセス評価書の年内提出にこだわる日本政府に対し、仲井真知事はそれを容認した。事務手続きは拒否できないというのなら、年明けからの仕切直しを主張すればいいのであり、仲井真知事が田中暴言問題と県議会決議を盾に年内提出を拒否すれば、政府もごり押しはできなかったはずだ。
しかし、仲井真知事は一括交付金のほぼ満額回答と引き替えに提出を容認し、そのため県民は年末年始にもかかわらず県庁につめかけ、阻止行動や座り込み行動をとらざるを得なくなった。田中前局長の暴言という沖縄にとって屈辱的な事件が起こったにもかかわらず、評価書の年内提出・受理が成立したのは、政府と仲井真県政の共犯によるものであり、沖縄防衛局による未明の評価書持ち込みの異常さや、形式上の不備を強引に押し切ったことを含めて、政府と仲井真県政はともに厳しく批判されなければならない。
私たちが直視しなければならないのは、ここまで強引にことを進めていく政府の姿勢であり、最後は政府の意向に従っていった仲井真県政の姿勢である。国の出した環境アセス評価書に対して、仲井真知事は厳しい意見を言い、「県外移設」を主張するかもしれない。しかし、そうしたからといって政府がそれを受け容れ、辺野古「移設」を断念して「県外移設」に政策転換することが考えられるだろうか。知事の意見は形式的に処理され、埋め立て申請に向けて歯車がまた一つ回っていくだけではないか。年末・年始の県庁での状況を見ながら、そういう懸念と不安を深めた人は多いはずだ(だから知事意見はどうでもいいというわけではなく、市民の意見を反映させる追求は必要だが)。
佐藤氏が書くように〈野田政権が、辺野古移設を断念するのは時間の問題〉なら、政府・防衛省はここまで強引にことを進めはしない。辺野古や名護、沖縄の現場の状況を自分の目で見たこともないヤマトゥの評論家が考えるほど、ことは生やさしいものではない。政府が〈辺野古移設を断念する〉か否かは、沖縄の反対運動がどれだけ高揚し、体をはってでも抵抗し抜くだけの強さを持ち得るかどうかにかかっている。強行しても大した抵抗は起きず、他の基地に影響を及ぼすほどの事態にはならない、と判断すれば、政府は埋め立ての代執行をしてでも建設を強行してくる。
現時点で政府が強行の意思を捨てている、と考えるのは早計であり、そういう認識が沖縄で広がり油断が生じるのは危険なことだ。「移設」強行というシナリオを追求しつつ同時に普天間基地固定化というシナリオを探るのは何も矛盾しない。むしろ、ごく当たり前の二面作戦にすぎない。
〈野田政権が、辺野古移設を断念する〉というのは、2010年5月28日に交わされた日米合意を日本政府が破棄することを意味する。それが〈時間の問題〉というほど短期間に起こる根拠を佐藤氏は具体的に示していない。ただ、外務・防衛官僚の動向から推測しているだけである。しかし、大統領選挙を11月に控えたオバマ大統領に対し、野田政権が一方的に日米合意を破棄することはあり得ない。米国議会のグアム移転予算削除はあるにしろ、オバマ政権は日米合意を進める方針を維持しており、だからこそ野田政権は環境アセス評価書の年内提出を強引に推し進めた。
野田政権が辺野古移設を強行するにしろ断念するにしろ、それはオバマ政権の意向を無視しては行われない。むしろそれに隷属した形で進められるだろう。日米合意の見直しを米国政府が先に言いだし、それを受ける形で日本政府が辺野古「移設」断念を検討する、というのが現在の日米関係を見れば考えられる形である。野田政権からすれば、米国政府の提案を受けるという形にすることで、自民党・公明党の批判をかわすことができる。沖縄の主張を受けて米国政府にもの申すことなど考えられないのが、悲しいかな、日本政府の実態である。
米国議会の動向や米軍の東アジアにおける新たな軍事戦略などの動きがあるにしろ、オバマ政権が近々に「日米合意」を見直し、辺野古移設からの転換を打ち出す動きがあるようには見えない。そもそも、オバマ政権にとって普天間基地の「移設」問題は、どれだけの緊急性と重みを持つものとしてあるだろうか。
日本国内を見ても、衆議院の解散・総選挙が早ければ4月にも行われる可能性がある。沖縄では2月に宜野湾市長選挙、6月に県議会選挙が行われる。これから半年は政局が流動的となり、〈辺野古移設断念〉というような大きな政治的影響を与える判断はむしろ回避、先送りされるだろう。一連の選挙の結果によっては、野田政権の方針が変わるどころか、政権そのものが変わる可能性もある。
その間、環境アセスの作業は進められ、外務・防衛官僚たちは辺野古「移設」強行と普天間基地固定化の二面作戦を進めていくだろう。それに対して、そのいずれも許さず、普天間基地の無条件返還を実現する力を、沖縄の内部から作り出していく必要がある。その時、仲井真知事の応援をして「県外移設」を後押ししていくという発想で運動作りをしたら、反対運動は足下をすくわれるだろう。日米両政府が恐れているのは、沖縄の民衆が自ら行動し、基地の機能が正常に保てない状態に陥ることだ。このままではそうなる、という判断をして初めて米政府は動き出す。辺野古新基地建設だけでなく、普天間基地の固定化も阻止するためには、沖縄を米軍にとって居心地の悪い場所に変えていく以外にない。
野田政権が近いうちに〈辺野移設古を断念〉するかのような幻想を煽るのは、そのような反対運動の盛り上がりを阻害するものでしかない。年末年始の県庁での座り込み行動を、埋め立て強行に対する抵抗の前哨戦ととらえ、反対運動の力量、動向を分析している目があることを忘れてはいけない。健闘したが最後は押し切られた、ではダメなのだ。これならやれる、押し切れる、と判断すれば、政府は力尽くでやってくる。それに対抗する力を、沖縄県民は自らの行動として示せるか。最後はそれが問われるし、その力を作り出すために今が重要な時期であることを押さえたい。