以下の文章は『監視社会ならん!通信』53号に掲載されたものです。
2022年9月20日に施行された「土地利用規制法」の本質は戦争準備法である。自衛隊基地や米軍基地、海上保安庁の施設など、戦争を担う組織の拠点を重要施設と位置付け、その機能を阻害するあらゆる動きを周辺地域から排除することを目的とする。
もちろん、日本政府はその目的を最初から露にはしない。小さく産んで大きく育てる。それが悪法を成立させる常套手段であり、基地周辺での反対運動も最初は「容認」されるという姿勢を示すだろう。しかし、社会情勢が変化すれば、それに合わせて法の適用が拡大され、規制がエスカレートしていくのは目に見えている。
米軍基地のゲート前での抗議行動が、今はできていても5年後、10年後にできるかは分からない。「台湾有事」を強調して戦争が迫っているとの不安や危機感を煽り、自衛隊や米軍の活動を阻害することは許されない、という意識を市民に広げていけば、警察権力を使って強制排除を行うことが可能だ。土地利用規制法はそのとき弾圧の法的根拠となる。
土地利用規制法の正式名称は「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」という。政府が適用範囲を拡大解釈するために使う「等」が三つも使われていることに注意したい。
土地利用規制法では自衛隊・米軍基地、海上保安庁の施設など重要施設の周辺1キロ以内が、注視区域もしくは特別注視区域に指定され、施設の「機能阻害行為」が行われないように調査し、規制するとしている。そして、一定面積以上の土地や建物の売買については、契約内容を内閣総理大臣に届けることが義務付けられ、違法と判断されると規制の対象となる。
基地の周辺に住んでいるだけで、政府によって自分や家族のプライバシー、土地などの資産状況が調査され、私有資産である土地の売り買いに介入されるのである。基地だけではない、空港や電力施設など安全保障の観点から重要とみなされる施設周辺も注視区域に指定されるし、その適用範囲は拡大される可能性がある。
沖縄は国境に接する離島が多く、在日米軍基地が集中し、さらに自衛隊基地も拡大している。当然、多くの住民が注視区域、特別注視区域に土地や家を持ち、生活を営んでいる。基地の周辺に住んでいるというそれだけで、政府による注視=監視の対象となり、私有財産が規制の対象となるのである。個人だけでなく、地域全体の土地利用計画にも大きな障害となる。
いま問題となっているうるま市の自衛隊訓練場建設予定地周辺の住民も、建設が強行されればその対象となる。土地の規制は資産価値にも影響する。周辺の住宅地域に住む住民は、自衛隊の演習被害だけでなく、プライバシーや私有財産の権利まで侵害されるのだ。反対運動も「機能阻害行為」と見なされかねない。
悪法が施行されたから、とあきらめるのではなく、その乱用や拡大を食い止め、廃止に向けた努力を続けていきたい。共に頑張りましょう。