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琉大文学と私-復刻に思うー

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 以下に紹介する文章は、2014年6月2日付沖縄タイムスに掲載されたものです。

 

 1979年の4月、琉球大学に入って間もなく文芸部室を訪ねた。当時、琉大は西原の新キャンパスへの移転作業が始まっていたが、農学部以外の各学部や図書館、サークル室、男女寮などはまだ首里にあった。守礼門を南側に下った所にプレハブのサークル室が並んでいて、その一つの2階に文芸部室があった。部員2人とOB1人がいて、活動状況を聞いたあと、76年発行の「琉大文学」を見せてもらった。

 将来は詩や小説を書いていこうと高校時代に思い、そのためには言葉についてきちんと学ばなければ、と考えて国文科に進んだ。文芸部にも関心があって説明を聞きに行ったのだが、今ひとつ活気が感じられなくて、再び文芸部室を訪ねることはなかった。

 79~80年にかけて琉大では、学生たちによってサークル闘争が取り組まれていた。大学当局は、新キャンパスではサークルの個室を廃止し、共用棟のみを建設する方針を出していた。それに反対し、各サークルに個室を要求して、学生自治会や文連、体連を中心に学内集会やデモが行われていた。その中に文芸部の人たちの姿もあった。

 81年に教養部とともにサークル室も西原町に移転した。学生の要求は実現して、各サークルは教養棟のほかに個室を確保した。しかし、新キャンパスに移転して以降、文芸部の活動はほとんど見られなかった。機関誌であった「琉大文学」の発行も78年が最後となっており、琉大文芸部の活動は実質的に首里キャンパスとともに終わったと言える。

 80年代に入り、琉大内で文芸部の活動が消える一方で、「琉大文学」出身の書き手たちは、沖縄において精力的に活動していた。詩や小説、評論、文学研究、演劇、ジャーナリズムなど各分野で一線をになっていた。私も当時、詩集や評論集が次々と出ていた清田政信の詩や評論をよく読んだ。

 ただ、前の世代を批判しつつ新しい文学を創り出していくという、かつて「琉大文学」の書き手たちが行っていた創作の形、意識は80年代の学生にはすでに消えていた。

 81年に新キャンパスで初めての大学祭が開かれたとき、国文科の同級生たちと「現代沖縄文学シンポジウム」という企画をやった。詩人の高良勉、松原敏夫、小説家の玉城一兵、仲若直子の四氏にパネリストをお願いし、小さなシンポではあったが、水納あきら、幸喜孤洋といった詩人たちも会場に来ていた。

 その企画を進めるにあたり、戦後の沖縄で発表された詩や小説を読んでいった。私自身はそれまで第一次戦後派の小説家や大江健三郎、高橋和巳などを読み、新川明、川満信一、岡本恵徳といった「琉大文学」の書き手たちにも一定の関心を持っていた。政治と文学をめぐる問題は当時の私にとって切実なものだった。ただ、それは当時の学生の中ではごく少数のあり方だった。

 シラケ世代と呼ばれた学生が主流となり、政治、思想問題への無関心、忌避感が当たり前となる。そういう状況は沖縄でも広まっていた。80年代半ばからはバブル経済の時代に入り、小説では大江健三郎や村上龍、中上健次が読まれる一方で、村上春樹や吉本ばなながベストセラーを出す。西銘順二知事の下で沖縄政治の保守化が進み、沖縄の音楽や芸能、サブカルチャーへの関心が全国的に高まっていった時期でもあった。

「琉大文学」は古本屋でもなかなか入手できるものではなく、80年代から90年代にかけては、沖縄文学に関心を持つ一部の研究者や書き手に伝説のように語られはしても、ほとんど忘れられた状態にあったのではないか。それがいま新たに見直され、不二出版から全集が復刻される。

 そこには90年代半ばに沖縄の基地問題が日米安保体制を揺るがす形で再浮上し、かつての「島ぐるみ闘争」を想起させる反基地運動の広がりのなかで、50年代から60年代の沖縄の状況に関心が高まっていったことが背景としてあるだろう。若手の研究者を含めて反復帰論に注目が集まり、「琉大文学」出身の書き手への再評価が行われつつあることも、復刻の契機となっているだろう。

 歴史は単純に繰り返すわけではない。それでも辺野古・高江への新基地建設と先島への自衛隊配備が進められようとし、「中国封じ込め」の最前線に立たされようとしている沖縄の現状を50年代、60年代と比較して見つめ直すことの意義は大きい。

 米軍のCIC(対敵諜報部隊)による監視・弾圧は過去のものとしても、共通番号制や特定秘密保護法が制定され、公安警備警察や自衛隊の情報保全隊が市民運動の情報収集行っている現状は、変わることのない国家による市民監視の実態を示している。

 文学作品には芸術性とともに時代の証言としての価値もある。研究者だけでなく、より多くの人に復刻された「琉大文学」を読んでほしい。

 


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