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Channel: 海鳴りの島から
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「地を這う声のために」2 後半

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「提言」では米海兵隊の新しい戦略「遠征前方基地作戦」(以下EABO)に焦点が当てられている。『豊かな選択肢』で野添氏は、EABOについて次のように語っている。

〈そこでは、集中した固定的な基地は中国のミサイルにねらわれやすいので、それを避けるために何としかしなければいけないというのが、非常に大きな問題意識となっています。EABOは、固定的な基地に依存することなく、小規模で分散された舞台で重要な位置にある離島に展開し、一時的な拠点にし、中国軍の海洋進出を阻止することが目指されています〉(『豊かな選択肢』七二ページ)。

 これを踏まえて野添氏は、「辺野古が唯一」に替わる「豊かな選択肢」を示している。

〈それならば、これにある意味乗るかたちで、沖縄の基地を削減できるのではないかと考えました。また、海兵隊は同盟国、日本の自衛隊との協力を重視していますので、沖縄にいる海兵隊を日本本土に分散させて、自衛隊基地との共同使用を進めるというかたちで、沖縄における基地の集中を是正しながら、日本の防衛協力を強化することで、この問題を解決できるのではないかといういうことです〉(同七二ページ)。

 これが万国津梁会議の委員らが考える、日米両政府も受け入れ可能な案である。アフガニスタンやイラクなど中東での陸上戦闘を中心としてきた米海兵隊が、中国への対抗として沿海部や島嶼での戦闘を重視する本来のあり方に回帰する。その流れを利用して在沖海兵隊を全国の自衛隊基地に分散しようという発想だ。

『豊かな選択肢』には〈米海兵隊の新戦略構想EABOのイメージ〉図が載っている(七六ページ)。琉球新報が制作したものだが、この図を見てまず感じるのは、島嶼に上陸した部隊は敵国(中国を想定)が地上や海上、戦闘機などからミサイル攻撃を仕掛けた場合、どうやって自らを守るのか、ということだ。

 制海権・制空権を確保することなく島嶼部に上陸するのは自殺行為である。これは軍事の常識だ。軍事評論家の田岡俊次氏は『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』(朝日新書)で次のように記している。

〈制空権・制海権のない海域の離島に上陸することは、補給、増援、救出の可能性がないから自滅が必至だ。特殊部隊で奇襲的に外国の小島を一時的に占拠することは常に可能だが、その後どうするかが問題だ。例えば自衛隊のレンジャーが突如ハワイ諸島の島の一つや舟山群島(上海沖)の一角を占領すればどうなるか、を考えれば分かりそうなものだ〉(二三九ページ)。

 少数精鋭の特殊部隊で島嶼に上陸するにしても、飛来するミサイルや戦闘機を迎撃するためにイージス艦や空母艦載機の支援がなければ、短時間で壊滅してしまう。琉球新報の図にはそういう視点がない。田岡氏が指摘するように、上陸したあとが問題なのだ。実際には海軍、空軍と連動した大掛かりな作戦となる。

 今年三月に米海兵隊のデビッド・バーガー総司令官が「米海兵隊戦力デザイン2030」を発表した。インターネットで読むことができるが※2、軍事偵察衛星や無人偵察機が発達したこの時代に、特殊部隊がいくら短時間で移動し、無人ゴムボートで攪乱するとしても、中国軍の攻撃を回避できるのか、という疑問を持った。中国軍の索敵能力を侮り過ぎではないか。

 無人兵器やロボット兵器、電子空間や宇宙空間での兵器開発が進むなか、損耗率の高い海兵隊の存在意義が薄れ、生き残りのために現実に即した(?)戦略・戦術を模索しているのは分かる。しかし、中国を相手に島嶼への侵攻を図ることや、〈遠くからではなく、むしろ中国の近くで行動することで中国を抑止する作戦〉(『豊かな選択肢』七九ページ)がどれだけのリアリティを持つのか。野添氏や山本氏が軍事的合理性をいうなら、まず「米海兵隊戦略デザイン2030」について検証すべきではないか。

「提言」では〈EABOはまだ策定過程にあり、不確実なことも多い。その実現可能性や予算面などへの批判もある〉としている。まだ未確定要素の多いEABOを根拠にした立論は脆弱ではないのか。

 また、いたずらに海兵隊の兵士を危険にさらす戦略・戦術を「提言」の委員たちは無批判に受け入れるのか。さらに、海兵隊が島嶼に侵攻するよりも前に、制海権と制空権をめぐって海軍と空軍も軍事行動を開始しているはずだ。「提言」では問題を海兵隊に絞っているが、実際の戦争では沖縄の陸・海・空軍・海兵隊と自衛隊、海上保安庁などが有機的に結びついて作戦を展開すると思われる。その点について、「提言」の委員たちはどのような検討を行ったのか。

 中国にとっては海兵隊よりも在沖空軍の方が脅威かもしれず、真っ先にミサイルで狙うのは嘉手納基地だろう。最近の報道でも、中国甘粛省の砂漠地帯に嘉手納基地を模した図が描かれ、ミサイルの発射実験が行われたことが報じられている。報道によれば、嘉手納基地内の燃料タンクがあると想定される位置にミサイルの着弾痕があるという。実際に攻撃を受けて燃料タンクが爆発すれば、住民地域の被害は計り知れない。

 仮に「提言」によって海兵隊が全国の自衛隊基地に分散し、ローテーション配備されたとしても、海兵隊を含む在日・在沖米軍が中国と交戦する事態となれば、嘉手納基地がミサイルの標的となり、周辺住民にも多数の死傷者が出る。それ以前に中国との軍事的緊張が高まることで、観光を主とした沖縄経済は深刻な打撃を受けているだろう。民間空港も自衛隊の管理下に置かれているはずだ。

「提言」はEABOが実行された際の沖縄への影響、住民の被害についての考察はなされていない。海兵隊の分散・移転を促すために、米軍基地の固定化についての危険性が強調されるだけだ。基地周辺住民への視点を持ち込むことは、日米両政府との議論の障害となると考えたのだろうか。それとも最初から念頭になかったのか。

「提言」では、米海兵隊を受け入れる「本土」の自衛隊基地を具体的に挙げることは回避されている。「本土」の自衛隊基地にしても、訓練の被害を受けている住民はいるし、自衛隊に反対する住民もいる。そういう不都合な要素に向き合わないのは逃げではないのか。「提言」の委員らは、実際に海兵隊を引き受ける自衛隊基地の周辺住民を説得する自信があるのか。誰かに泥をかぶせるだけではないのか。※3

 米軍と自衛隊との一体化の促進は、「提言」が言わずとも日米両政府が進めている。それは「本土」への分散化どころか、沖縄島や奄美、宮古、八重山、与那国の自衛隊強化と米軍との共同訓練という形で現実化している。

 二〇一八年四月七日に長崎県の相浦駐屯地で発足した陸上自衛隊水陸機動団が、今年の二月九日に金武町のブルービーチで在沖海兵隊と共同訓練を行った。水陸機動団は離島防衛の専門部隊だ。EABOはこのような共同訓練を活発化させるし、すでに二〇一七年の段階で、キャンプ・ハンセンに陸自の水陸機動連隊を駐留させる案が出されている。EABOは「提言」とは逆の結果をもたらす可能性があるのだ。

 このような動きに対し、「提言」に示されるような日米安保と自衛隊への認識を持つ玉城知事が、明確に反対するとは思えない。宮古、八重山、与那国への自衛隊配備に対する姿勢にそのことは示されていて注意を要する。※4

「提言」では、辺野古新基地建設に関わるゼネコンや沖縄県内企業の利権の問題、自衛隊との共同使用の問題、思いやり予算、他の海兵隊訓練施設との関係、福利厚生面、治安の問題などは考察されていない。

 ほかにも疑問や意見はあるが紙幅が尽きた。(二〇二〇年一〇月三〇日脱稿)

 

【注】

※2 「Militerm 軍事情報ウォッチ」のホームページで翻訳・紹介されている。

※3 これは「引き取り論」を唱えている市民グループにも言えるのだが、普天間基地や在沖海兵隊の「引き取り」「移転」を唱えている人たちは、「引き取り」先、「移転」先となる地域に自分自身が出向いて行って、そこの住民と議論を交わす気があるのだろうか。その場には高齢者や子ども連れを含め多様な住民が集まるだろう。冷静な議論では収まらず、罵声が飛び交う場面が出るかもしれない。それでも粘り強く説得を続ける気があるのだろうか。

 仮に「引き取り」「移転」が具体化するとしても、防衛局や自治体の職員が矢面に立つと考えていて、自分が泥をかぶる気はないのではないか。いや、そういう立場に立つことは最初から考えもせず、「引き取り」先、「移転」先の住民の間で対立が生じ、家族、親族、友人間でさえ関係が悪化していくことを想像すらしていないのではないか。それとも、沖縄の名護市ではすでにそういう経験をしているから、「本土」でも同じ経験をすべきだとでも考えているのか。

 辺野古の現場に足を運ぶことは滅多になく、政府や県に呼ばれて議論をし、提言することで、政治を動かす力を得ているような気にでもなっているのか。内輪の議論で終わらせず、佐賀空港でも馬毛島でも具体的に場所を挙げて、そこの住民と議論してみたらいい。子どもや孫たちを守ろうと必死な親たちやお年寄りたちの顔を正面から見つめ、話すだけの意欲と勇気と誠実さがあるのか。

※4 鹿児島県の馬毛島や奄美大島、沖縄島、宮古島、石垣島、与那国島における自衛隊強化、基地建設に対して、故翁長前知事や玉城知事は明確に反対せず、黙認の姿勢をとってきた。中国の海洋覇権拡大を阻止する拠点として、米軍と自衛隊の強化が沖縄全体でなされている現状に対し、万国津梁会議の「提言」や玉城知事の認識は楽観的過ぎる。米海兵隊の「移設」に問題を矮小化するのではなく、自衛隊の強化と米軍との一体化を含めて、沖縄、日本の軍事強化に反対していかなければ、沖縄県民はこれまで以上に軍事的脅威にさらされる。

 


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