以下の文章は2020年10月22日付「琉球新報」に〈菅政権の姿勢/リンク論強め、辺野古強行へ/知事選向け、利権ばらまき〉という見出しで掲載されたものです。
菅義偉新政権が発足して一ヵ月余が過ぎた。この間、同政権がやったことで一番印象に残っているのは、日本学術会議の会員に推薦された学者6人の任命を拒否したことだ。まったく、安倍政治を継承する、とはよく言ったもので、陰湿な小心者に権力を与えるとどうなるか、ということを前政権に続いて見せつけている。
権力の源は人事と予算である。安倍政権でも自らに同調する「オトモダチ」を優遇し、森友学園、加計学園、桜を見る会と次々と問題を引き起こした。政権の私物化が批判されてきた一方で、内閣人事局を使って官僚支配を徹底し、辺野古新基地建設に反対する沖縄県に対しては、基地問題と予算をリンクさせ「アメとムチ」の強権政治を行ってきた。
任命拒否について学術会議から反発が出ると菅政権は、同会議を行政改革の対象にする、と打ち出してきた。文句があるなら予算と人員を減らすぞ、という脅しであり、ここまであからさまにやるか、と呆れるほどの粗雑な政治手法が、まかり通っている。
菅政権の主たる狙いは、戦争の反省と軍事研究への非協力を打ち出す学術会議を叩き、影響力をそぎ落とすことで、全国の大学に防衛省と協力して軍事研究を進める動きを作り出すことにあるのではないか。新型コロナウイルスの感染拡大で経済危機が深まるなか、兵器や軍事技術の開発に研究者を動員し、経済の軍事化と軍産学複合体の強化を進める動きが強まりそうだ。
このような菅政権の姿勢は、沖縄に対しても貫かれるだろう。菅氏は安倍政権下で内閣官房長官と同時に、沖縄基地負担軽減担当大臣を務めてきた。「負担軽減」という名称とは裏腹に、高江でも辺野古でも機動隊や海保を使って市民を弾圧し、工事を強行してきた張本人だ。
そういう菅氏が首相になったからといって、辺野古新基地問題に対する姿勢を変える可能性があるだろうか。
9月27日付本紙3面に「佐藤優のウチナー評論」660回が載っている。〈菅政権始動/新たな県内移設案探るか〉という見出しを見ると、あたかも菅政権が、辺野古新基地建設を中止し、〈新たな県内移設案を探る〉動きがあるかのような印象をいだく。しかし、本文を読むと佐藤氏自ら記すように〈根拠になる情報に基づくものではなく〉佐藤氏の〈推定〉が述べられているだけだ。
そこでは〈中央官僚の現実主義派〉の中に〈キャンプ・シュワブ基地内に1500メートルの滑走路を建設〉し、〈軍民共用〉にする案を持つ者がいるかのように書かれている。しかし、官僚や政治家の中にそのような案があるということと、菅政権がその案を採用することとの間には、大きな開きがある。安倍政権下で自らも進めてきた辺野古新基地建設を断念し、変更するとはとうてい思えない。
佐藤氏の評論は菅政権への幻想を煽るものであり、見出しのような可能性があると〈推定〉するなら、裏付けとなる根拠を示すべきだ。
実際、岸信夫防衛相や河野太郎沖縄・北方相、加藤勝信官房長官の辺野古新基地問題に対する発言を見ても、「辺野古が唯一」とくり返してきた方針を変える動きは見られない。むしろ、2年後の県知事選挙を見すえて、「基地と経済」のリンク論をさらに強め、辺野古側の埋め立てを強行する動きが強まりそうだ。
新型コロナウイルスの感染拡大により、観光を主産業とする沖縄経済は、大きな打撃を受けている。その前から首里城の火災や豚コレラの発生など、沖縄経済にとってマイナス要因が連続していた。秋になってヨーロッパでは新型コロナウイルス感染拡大の第2波が襲っている。沖縄・日本でも再び緊急事態宣言が発せられる状況となれば、経済の落ち込みはより深刻となる。
1998年の県知事選挙で大田昌秀知事を倒したときのように「県政不況」を宣伝し、県民に基地問題よりも経済問題を優先させる。
そのためにも辺野古側の埋め立てを加速し、もう後戻りはできない、というあきらめムードを広げ、さらに辺野古利権をばらまくこととで、県民の絡めとりを図る。政府にたてつく玉城県政を倒すため、菅政権が攻勢を強めるのは間違いない。
辺野古新基地建設に関し沖縄防衛局が県に提出していた「設計変更申請書」が、9月8日から28日まで縦覧された。同申請書では、大浦湾の埋め立てに使用する岩ずりの採取地として、沖縄島の国頭、北部に加えて南部、宮城島、宮古島、石垣島、南大東島が挙げられている。さらに埋め立てに使用する材料も、新たに公共残土とリサイクル材が加えられている。
つまり、大浦湾の埋め立て工事に関われる地域や業種が増やされ、利権のばらまきが行われているのだ。これまで辺野古の新基地工事とほとんど関係がなかった宮古島や石垣島、南大東島などの業者にも、辺野古は儲かる、という意識を植え付け、基地ができるなら取れるものを取った方がいい、というあきらめと打算を全県的に広げる狙いが見える。
2年後の県知事選挙に向けて動きは始まっている。