2月20日午後に仲井真弘多知事は、米軍普天間基地の名護市辺野古「移設」に向けた環境影響評価書に対する意見書を沖縄防衛局に提出した。
21日付の琉球新報には、「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書 飛行場設置事業への知事意見」の全文が2面にわたって掲載されている。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-187713-storytopic-53.html
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2012-02-21_30116/
「知事意見」は冒頭に以下のように記している。
〈普天間飛行場移設問題の喫緊の課題は、普天間飛行場の危険性の除去であり、一日も早い移設・返還の実現が必要である。
県としては、地元の理解が得られない移設案を実現することは事実上不可能であり、日本国内の他の地域への移設が、合理的かつ早期に課題を解決できる方策であると考え、日米両政府に対し、同飛行場の県外移設及び早期返還の実現に向け、真摯に取り組むよう、繰り返し求めてきたところである〉
前文では続けて、当該事業実施区域である辺野古沿岸海域や周辺河川、森林が絶滅危惧種をはじめとした貴重な動植物の生息地域であるとして具体例を列挙し、近傍に良好な生活環境、自然環境に恵まれた集落が存在することをあげて、埋立事業や工事、航空機の騒音がもたらす〈極めて大きい環境影響〉を指摘している。
また、方法書から評価書まで国が事業内容の〈追加、修正〉をくり返してきたこと、MV−22オスプレイの配備と飛行経路の変更を最終段階の評価書で明らかにしたことの問題を指摘している。
そして、前文の最後に〈記〉として、以下のように結論づけている。
〈普天間飛行場代替施設建設事業の実施に係る環境影響について、事業者である国は、評価書の総合評価において「事業の実施に際して、環境保全上、特段の支障は生じない」としているが、次に示す不適切な事項等により、名護市辺野古沿岸域を事業実施区域とする当該事業は、環境の保全上重要な問題があると考える。また、当該評価書で示された環境保全措置等では、事業実施区域周辺の生活環境及び自然環境の保全を図ることは不可能と考える〉
そのあと「知事意見」では評価書の各項目について〈不適切な事項〉として、専門的な立場から175件の問題点が指摘されている。
これだけ問題点をあげ〈生活環境及び自然環境の保全を図ることは不可能〉とするなら、〈地元の理解が得られない移設案を実現することは事実上不可能〉という客観的な認識を述べるにとどまらず、知事は国に対し辺野古「移設」事業の断念をはっきりと求めるべきだった。それができないところに、これまでも指摘されてきた仲井真知事の限界があらわれている。
それでも2010年11月に行われた県知事選挙の直前まで、仲井真知事が辺野古「移設」を進める立場にあったことを思えば、桜井国俊氏(沖縄大学教授)が〈これほど厳しい知事意見は、日本のアセス史上初めてのことだ〉(21日付琉球新報)と評価するような「知事意見」が出されたことは意義がある。
このような厳しい「知事意見」が出たのは、直接的には県環境影響評価審査会(会長・宮城邦治沖縄国際大学教授)の答申に基づくものだ。同時に「知事意見」の背景にあるのは、普天間基地の県内移設を許さないという県民世論である。それこそが仲井真知事をしてこのような「意見」を提出するにいたらせた。その県民世論を作り出し、ここまで持続、拡大させてきたのは、県内外で多様な形で取り組まれてきた反対運動の力である。
政府・防衛省がこの「知事意見」、県民世論を踏みにじり、あくまで辺野古「移設」を進めようとするなら、全県的な反対運動がそれを阻止する。政府は速やかに辺野古「移設」をはじめとした一切の「県内移設」計画・案を断念し、普天間基地の「県外・国外移設」を進めるか、それができないと言うなら無条件返還に力を尽くすべきだ。それが政府にとって実現可能な選択肢である。
「知事意見」に記されているのは仲井真知事や専門家の意見だが、その背後には政府・防衛省がこれまで強引に進めてきた環境アセスメントに対する沖縄県民の不信や疑問、怒りが渦巻いている。そのことを日本の政治家、官僚は知らねばならない。くれぐれも形式的に処理してすまされるとは考えないことだ。