1月29日(日)午後1時半から那覇市民会館で「番号制度シンポジウムin沖縄」が開催される。国民全員に共通番号(マイナンバー)を割り振って、税務、年金、医療、福祉、介護保険、労働保険など6分野の情報を国が一体的に管理する共通番号制度について、講演とパネルディスカッション、県民との意見交換が行われる。
以前にも指摘したが、このシンポジウムは沖縄タイムス社、琉球新報社の共催による。政府は昨年夏から同様のシンポジウムを全国各地で開催しているが、各地の地方紙と共催することによって、マスコミの抱き込みを図っている。そのために、個人情報保護法や住基ネットが制定された時と比べ、マスコミは沈黙を守り、問題が市民に広く認識されていない。市民のプライバシーを侵害する点において、共通番号制度の方がより深刻であるにも関わらずだ。
住基ネットと違い、共通番号(マイナンバー)は公開され、民間企業の利用も予定されている。上記6分野に関する個人情報が、民間企業にも利用されることに、あなたは納得できるだろうか。大半の人にとって病歴や薬の使用記録などの医療情報は、病院関係者以外には知られたくない重要な個人情報のはずだ。一方で、生命保険会社をはじめそのような個人情報を入手したい企業もある。本人の同意もなく個人情報がやりとりされるなら、それはプライバシーの侵害である。
昨年10月に前田陽二・松山博美著『国民ID制度が日本を救う』(新潮新書)という本が発行された。国民ID制度推進を主張する著者たちによるもので、同制度が成立すれば、被災者支援はスムーズに進み、「消えた年金問題」も生じず、経済効果は年間3兆円、というバラ色の世界が謳われている。それは共通番号制度でも宣伝されていることだ。
しかし、甘い言葉の裏にあるものは何か。国民ID制度を推進する人々の狙いやプライバシーに対する認識を示した一節が本書にある。同制度の導入には最低でも6000億円の費用がかかるとされている。それ自体が巨額の利権となっているが、その費用捻出のために著者たちは、住基ネットに蓄積、連携された情報を民間企業に販売することを主張する。( )内は私の挿入。
〈またそこ(住基ネット)に蓄積、連携される個人の属性情報は、医療分野や介護分野、あるいは各種政策を決める上で大変参考になる莫大な統計情報になります。民間企業にとっては、素晴らしいマーケティング情報にもなるでしょう。国民ID制度の運営費用は、これらの「個人識別と完全に切り離した形の属性情報」を必要とする部門や企業に販売することで賄えるのではないでしょうか。もちろん販売に当たっては厳密な審査機関の審査を介在させて、情報流出が起きないようにします〉(175ページ)。
著者たちは個人情報を〈個人を識別するための「個人識別情報」と、行政サービスや医療・介護サービスなどに必要となる「個人属性情報」に分け〉(174ページ)て匿名化し、厳密な審査と情報流出を防げば問題ないかのようにいう。しかし、そもそもどうして市民は自分の個人情報を勝手に民間企業に売り飛ばされなければならないのか。住基ネットは民間企業に情報を提供・販売するために作られたものではなく、むしろそれを禁じていたはずだ。
このようなことを平然と書くところに、国民に番号を割り振り、一元的管理を目ざす人々のプライバシーに対する認識と人権感覚の低さがよく現れている。
共通番号制度にしても国民ID制度にしても、導入を進める政府と財界の目的は、番号によって集積され、連携される膨大な個人情報の民間活用にある。今の時代、情報は金を生み、他に先駆けて情報を握るものが利権を握る。住基ネットや共通番号制度などによって収集・管理される個人情報は、民間企業にとって利益をもたらす材料となる。
市民の知らないところで個人情報がやりとりされ、企業の営利活動に利用されることはすでに起こっている。しかし、共通番号制度が導入され、全国民に割り振られた番号が民間企業に利用されるようになれば、その規模は飛躍的に拡大する。それによって市民は、自分の情報をコントロールする権利を失ってしまう。また、番号が公開されて日常的に使われれば、情報流出や成りすまし犯罪も増大する。その危険性は住基ネットの比ではない。
内閣府による共通番号制についての世論調査の結果が、28日のテレビや新聞で報じられている。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120128/t10015609251000.html
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120128/plc12012820050013-n1.htm
必要に57・4%という数字が出ているが、共通番号制度の内容を知っているというのは、わずか16.7パーセントにすぎない。この数字の落差を生み出している原因はマスコミにもある。マスコミが共通番号制度をその問題点も含めてきちんと報道していれば、内容も知らずに必要とする人がこれほど出なかっただろう。
一方で「個人情報の漏洩によるプライバシー侵害」(40・5%)、「個人情報の不正利用による被害」(32・2%)、「国により監視・監督されることへの恐れ」(13%)など、85・7%もの人が不安や懸念を抱いている。
昨年、三菱重工業やIHIなど軍需産業、衆議院へのサイバー攻撃が行われたのは記憶に新しい。軍事機密に関わる業務を行っている軍需企業は、セキュリティにも高度な対策を講じているはずだが、それでも情報漏洩が発生している。共通番号システムや住基ネットシステムにしても、サイバー攻撃の対象となる可能性がある。日常的にパソコンや携帯電話などを使う生活を送るいま、個人情報の管理や監視について、市民が不安や懸念を抱くのは当然である。
共通番号制度についての認識が進まないなかで、その導入のために政府が今国会で法案を提出するのは拙速である。法案提出は見送るべきだし、マスコミは同制度の問題点をきちんと報じるべきだ。