2001年1月にNHKがシリーズ「戦争をどう裁くか」の第2話「問われる戦時性暴力」を放送してから13年余になる。女性国際戦犯法廷をテーマにした同番組に政治的圧力をかけたのは自民党衆議院議員の中川昭一氏と安倍晋三氏であったが、中川氏は2009年に酩酊状態で記者会見に出たことが問題となって大臣辞職に追い込まれ、さらに選挙にも落選し、同年10月に死去した。
一方で、安倍氏は総理大臣に返り咲き、その「お友達人事」でNHKの経営委員や会長になった人物らが問題発言をくり返している。わざわざ外部から政治的圧力を加えなくても、「慰安婦」=戦時性奴隷や南京大虐殺など日本軍が侵略戦争の過程で犯した問題は、これら会長や経営委員がしっかりと対処してくれるものと、安倍首相はほくそ笑んでいるのかもしれない。
NHKの中にも、社会の中で声をあげられない弱い立場の人たちに寄り添い、歴史の事実に迫ろう、現代社会の裏面をえぐり出そう、という意欲を持って番組の製作に当たっている人たちが、現場にはいるはずだ。そういう人たちの努力が上からの圧力で踏みにじられることは、視聴者が良質の番組、作品を見る機会を奪われることを意味する。そればかりか政府の意図する方向へ世論を導く道具として公共放送が利用されるだろう。
本書は4年前に出版されたものだが、京都駅の書店で見つけてつい最近読んだ。「問われる戦時性暴力」を製作した当事者が書いたドキュメンタリーであり、NHK内部で番組が改変されていく状況がつぶさに描かれている。著者が記すとおり、問題は終わっていないばかりか、籾井NHK会長らの発言を見ると、より悪い形で再生産されようとしているとしか思えない。今、読み返されるべき1冊だ。