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Channel: 海鳴りの島から
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「地を這う声のために」第5回 後半

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 新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、映画館に行く機会はほとんどないので、五十嵐匠監督『島守の塔』はまだ見ていない。したがって作品については論じられないが、島田知事をめぐる動向については、2014年に安倍首相が「島守の塔」で手を合わせるのを目にする以前から関心を持ってきた。「ヤマトゥの監督による「島守の塔」の映画製作やそれを全面的に支援する県内マスメディアの動きも、先に述べた〈対中国との関係で自衛隊の強化を進める上で、沖縄県民の意識を作り替えていくこと〉という流れの中でとらえている。

 もちろん、大江・岩波沖縄戦裁判を起こした「靖国応援団」を自称する弁護士グループや藤岡信勝らの自由主義史観論者、あるいは安倍晋三元首相と映画「島守の塔」製作者・支援者とは、よって立つ位置や主義主張が違う。しかし、沖縄戦をとらえ返し、表現していく際の視点が、戦争を推進する権力者側の人物を中心とし、なおかつ批判・検証する力が失われていくとき〈沖縄県民の意識を作り替えていく〉役割を果たしていくことになるだろう。

 2017年の10月に兵庫県神戸市で講演する機会があった。辺野古新基地建設について、カヌーに乗って海上で抗議している状況を中心に話したのだが、神戸ということもあって、次のようなことも話した。

 〈兵庫県の皆さんは島田叡知事のことをよく話題にしますが、渡嘉敷島で住民に「集団自決」=強制集団死を命じ、住民虐殺を行った赤松嘉次隊長のことはどれだけ話題にしているでしょうか。赤松隊長は兵庫県加古川市出身なんですよ。兵庫県の皆さんが地元出身者と沖縄のかかわりを言うのなら、島田知事だけでなく、赤松隊長についても、もっと言うべきではないですか〉。

 この問いかけに対し演壇近くの参加者が「赤松隊長は加古川出身だったのか?」と小声で話しているのが聞こえた。反応はそれくらいで、講演後の質疑でも会場からの発言はなかった、と記憶している。

 兵庫県人にとって島田知事は、自らを犠牲にして沖縄県民の命を救った、という心地いい物語を作れる対象だ。それに対し赤松隊長は、強制集団死や住民虐殺を兵庫県人が行った、という忌まわしい事実を突き付けられる。沖縄に犠牲を強いた、という負い目から抜け出したいヤマトゥンチューが誰に注目し、誰から目を背けるか、は明らかだろう。奄美・琉球諸島への自衛隊配備・強化の進行と連動するように、島田元知事賛美と赤松元隊長の忘却が進んでいる。

 

 以前、沖縄戦を戦った元日本兵に話を聞いた時、八十歳を過ぎてガンで入院しているその人は、次のように語っていた。

 戦争というのはね、現役兵が戦うものなんです。体力がある二十代の若者が、現役兵として一緒に生活をし、厳しい訓練を積んで、しっかりした指揮・命令の下で戦ってはじめて、ちゃんとした戦闘になるんです。素人を集めてにわか仕立てで部隊を作っても、戦えるわけがないんです。

 そう言って彼は、沖縄の住民・学生を防衛隊や鉄血勤皇隊に組織化した当時の政府や日本軍の方針を批判していた。自ら現役兵(陸軍兵長)として戦った彼の言葉には説得力があった。私の父は14歳で県立第三中学校(現名護高校)の鉄血勤皇隊に参加し、本部町の八重岳で米軍と戦っている。歩兵銃が重くてまともに構えることができず、木の股や石に銃身を乗せて撃った、という。もともと小柄で今の小学校4,5年生くらいの体しかなかった、と父は話していた。

 そういう中学生たちの名簿を島田知事は軍に提供し、鉄血勤皇隊の防衛召集に協力したと言われる。戦場に駆り立てられる少年たちに、島田知事はどのような認識を持っていたのか。当時の中学生は生まれた時から軍国主義教育を叩きこまれて血気盛んであったろう。しかし、まともな戦闘要員になれないことくらい島田知事なら分かっていたはずだ。

 自ら死地に赴いた島田知事を賛美する裏にあるのは、命を惜しんで逃げだそうとする者を卑怯者と呼び、逃げたくても逃げられない心理状態に追い込んでいく詐術である。それはまた、日本軍による住民虐殺や強制集団死、暴行、豪追い出し、食料強奪などの歴史から目を背け、沖縄県民のために自らを犠牲にしたヤマトゥの政治家、官僚という物語を広げていく詐術でもある。

 日本の安全保障政策は沖縄を犠牲にすることで成り立っている。「台湾有事」を煽り立て、沖縄を今度は中国との戦争の「捨て石」にすることで利益を上げようとする軍需産業と政治家たちがいる。彼らにとって島田元知事を賛美する風潮は有り難いことだろう。地獄への道は悪意だけでなく、善意でも掃き清められるのだ。

 

※1 2022年9月22日にゲート前の抗議行動は3000日の節目を迎えた。県内外から集まって抗議する市民に対し、沖縄県警だけでなく、時には東京警視庁の機動隊まで動員して弾圧態勢が敷かれた。ゲート前の状況も行動開始当初とは大きく変わり、山形の鉄板が敷かれ、仮設ゲートが設置されて座り込みの場所が狭められた。2020年以降は新型コロナウイルスの感染拡大により、組織的な行動が制限されるなか、有志によって座り込みが続けられた時期もある。多くの困難をのりこえて、辺野古新基地建設を阻止する、という市民の現地行動が持続されている。

※2 2022年7月8日に安倍元首相が銃撃され、殺害される事件が起こった。衆議院選挙の応援で街頭演説を行っているさなかのことだった。ニュースに接して思い出したのが、8年前に平和祈念公園で目にした安倍首相の様子だった。追悼式典の会場を出たあとの安倍元首相の行動は、あまりに警戒心が乏しかった。この8年の間も同じことをくり返してきたのだろう。

※3 引用は目取真『ヤンバルの深き森と海より』影書房89~90ページより)。


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