まだ計画段階の南部の土砂がメディアやインターネット上で大きく話題になる一方で、現在進められている辺野古側の埋め立てに使用されている北部・本部半島の土砂は、どれだけ注目されているだろうか。軟弱地盤問題が取りざたされたときにも感じたが、これから先の計画に関心が集中し、いま進められている辺野古側海域の埋め立て工事には、ほとんど関心が向けられず、現場に抗議に来る人も少ない。これは一種の現実逃避ではないのか。
辺野古側海域がK1~K4護岸で囲われ、土砂投入が始まってから、私は豊原区の高台から埋め立て工事の進行を定点観察してきた。当初はメディア関係者や県の基地対策課の職員、県内外からきた市民の姿を一日に何度も目にした。しかし、今は誰かと居合わせることはめったにない。
ずっとその場に張り付いているわけではないので、私とは別の時間に来ている人はいるだろう。そうであったとしても、埋め立て工事の現状に関心を持ち、ドローン以外では最もよく観察できる場所であるそこに訪れる人が多ければ、自然と姿を見かけることも増える。そういうことがほとんど無くなったのは、埋め立て現場を自分の目で確かめようという人が減ったからだろう。
県内紙の報道にしても、辺野古の日々の工事に関しては、短いベタ記事かツイッターの文章を転載してすませている。工事が行われていても、紙面に載らない日もある。どうせ同じことの繰り返しだから……。そういう意識が記者に広がり、関心が低下しているとしか思えない。何か変化はないか、と意欲的に取材するのではなく、かわるがわる辺野古にやって来ては、与えられた役割をこなしているだけではないか。
抗議船に乗って取材していた新聞記者がカメラを持っておらず、「最近はスマホでもいい写真が撮れますから」と言うのに驚いたことがある。米軍基地内や海上で事故が発生し、望遠レンズが必要になるかもしれない。そういうことは想定もせず、辺野古の現状はツイッターにしか載せないからスマホで十分、と考えていたのか。
新基地建設に反対している人の中にも、次のように考えている人がいるかもしれない。軟弱地盤の問題があるからいずれ工事は行き詰まる。大浦湾の埋め立ては進められないし、新基地は完成しない。しかし、辺野古側海域の工事は止められそうにない。
辺野古側海域までは埋め立てられても仕方がない。しかし、大浦湾側の埋め立ては進まないので新基地建設は頓挫する。そこまで明確に意識化していなくても、新基地が完成しなければよし、として、辺野古側の埋め立てについてはあきらめ、見て見ぬふりをする雰囲気が潜在的に広がっているのではないか。
軟弱地盤問題でいずれ行き詰まるなら、時間と金を費やして辺野古まで抗議に行く必要はないかもしれない。新型コロナウイルスの感染拡大もあるし、辺野古の現場に行かないでインターネット上で反対すれば楽だ。だが、辺野古側の埋め立てで終わったとして、それで何が起こるのか。
沖縄県民が反対したので代替施設が造れず、普天間基地を継続使用するしかない。日米両政府はそう主張して、普天間基地を固定化するだろう。埋め立てられた場所は国有地であり、どう使おうと国の勝手だ。滑走路は完成しなくても、オスプレイが離着陸できるヘリパッドを複数造れる。陸上自衛隊水陸機動団の移設先として兵舎などの施設を建設することもできる。自衛隊と共用することで、米軍専用施設の比率を下げることができるし、国有地だから半永久的に使用でき、軍用地料を払う必要もない。
仮に大浦湾側の埋め立てが進まなくても、辺野古側の埋め立てが完成すれば、新たに計画が練り直され、多様な形での利用が可能なのだ。そういう想像を具体的にしたことがあるか。
キャンプ。シュワブのゲート前だけでなく、埋め立て用土砂が積み込まれている名護市安和の琉球セメント新桟橋や本部港塩川地区、そして土砂が陸揚げされる辺野古崎のK8護岸や大浦湾のK9護岸に人が集まり、阻止行動を展開しなければ、辺野古側の埋め立ては日々進んでいく。
実際には、軟弱地盤の問題があるにしても、新基地建設工事は期間を延ばし、予算を膨らませながら続いていくだろう。そこにはゼネコンと政治家の利権が絡んでいるし、金をばらまくことで県知事選挙をはじめとした各種選挙に勝ち、政治、経済面から沖縄の抵抗と自立を抑え込むという思惑も見える。
辺野古の海域ではN2護岸建設に向けたサンゴの移植作業が計画され、辺野古ダム周辺で美謝川の切り替え工事も準備が進められている。埋め立て用に海上から運ばれる土砂は、一日に十トンダンプカー千台以上の量だ。いま進められている工事を止めれば。これから先の計画も止まる。そのために行動しなければならない。