5月18日付琉球新報の1面に〈北部 医療格差に悲鳴/「装具も人も足りない」/負担増、地域の医師奮闘〉という見出しの記事が載っている。沖縄島北部地域の医療の実態が報告されている。
〈北部の医療施設は約60。開業医だけで220を超える中部や那覇と比べると圧倒的に少ない。1院でも閉鎖すると、他の診療所に患者が集中し悪循環が続く〉
〈北部の感染症専用病床は2床、感染症専門医は1人のみ。北部で新型コロナ感染者は2人と爆発的な感染は起きていないが、医師に負担が集中する現状は続く。病床数を備えて複数の診療科を持つ「基幹病院」が北部にはない。最新機器を備えた病院がいくつもある那覇や中部と同じような医療態勢はなく、常に現場にしわ寄せがいく〉
〈6月7日投開票の県議選が迫る中、北部基幹病院の設置に向けた議論は止まったままだ。指導的立場になる習熟した医師が育つまで10年はかかる。「それを待っている間に北部の医療は吹っ飛ぶ」〉
以前、父が県立北部病院に長期入院していた。容体が悪化して何度か集中治療室に入ったが、内科病棟には2床が用意されていて、その時の様子を思い出しながら上の記事を読んだ。
新型コロナウイルスの感染拡大が問題となってから、北部地域の医療態勢については、ずっと気になっていた。すでに中南部では感染者が広がっていた。仮に北部地域で感染が広がり、患者が5人、10人と出た場合、中南部の病院に回すことができるのか。たらい回しになって、受け入れ先が見つからなくなるのではないか。そういう不安があった。北部地域は高齢者が多い。私も高齢の親がいて、気が気でなかった。
私の父はALSという病を患っていた。県立北部病院の医師や看護師の皆さんには、献身的に診ていただき、今も感謝している。ただ、新型コロナウイルスの感染が爆発的に広がれば、難病患者に手が回らなくなってしまわないか。そういう不安を抱えている患者や家族は、少なくないと思う。
沖縄は夏場でもインフルエンザが流行する。新型コロナウイルスに関しても、観光客が増えれば、夏場だからといって油断できない。秋以降に第2波が来た場合、今の北部の医療態勢で対応できるとは思えない。あと数か月でどれだけ改善できるのか。北部の住民には命がかかっている問題だ。
辺野古新基地建設が強行されている沖縄島北部地域の、これが現実なのだ。現場で働いている作業員や警備員、抗議する市民の中には、北部在住者も多いだろう。工事を強行することで感染者が出ればどうなるか。日本政府と沖縄防衛局は、どう責任を取るのか。
医療施設もろくに整えられない地域に、莫大な予算を使って米軍基地を造る。まさに地域住民を愚弄するものだ。離島に暮らす人たちの不安は、沖縄島北部よりも大きいだろう。今やるべきことは、医療崩壊を防ぐために最優先で予算を回すことであり、辺野古新基地建設でこれ以上浪費するのは許されない。
「新型コロナ以前/以後」という言い方がなされる。辺野古新基地に関しても、「新型コロナ以前」と同じ、ではすまされないはずだ。辺野古新基地建設に関しては、これまでも予算のあり方が杜撰すぎた。2・7倍、9300億円に増えました、と簡単に言ってのける日本政府・沖縄防衛局の感覚が、そもそも異常なのだ。
辺野古に米軍基地を造る金は、天から降ってきたのではない。生活に苦しみ、命の不安を抱える市民から搾り取ったものであり、市民の窮状を救うために優先使用するのは当たり前のことだ。それこそが「新型コロナ以後」の世界の常識にならなければいけない。