以下の文章は、2020年4月29日付琉球新報に〈世界史的な転換点/軍事費削減し感染症対策に〉という見出しで掲載されたものです。
沖縄県民の命と健康は、日本政府と沖縄防衛局にとって、こんなに軽いものなのか。辺野古新基地建設や普天間基地からの泡消火剤流出事故をめぐる動きを見ていると、その思いが強くなる。
故翁長雄志前知事は、うちなーんちゅ、うしぇーてーないびらんどー、と口にしていた。現状は、なめきっている、としか言いようがない。安倍首相や菅官房長官が口にする、沖縄に寄り添う、沖縄の負担軽減、という言葉は口先だけのものであり、やっていることは真逆だ。
実際に寄り添い、負担軽減を図る気持ちがあるなら、大浦湾の軟弱地盤の改良に伴う設計変更を、4月21日に沖縄県に申請することはあり得ないはずだ。新型コロナウィルスの感染防止のため、玉城知事をはじめ沖縄県全体が懸命に取り組んでいるなか、あえて業務の負担を増やすことをどうしてできるのか。同じことを東京都や大阪府にもできるのか。
21日には大浦湾で埋め立て用土砂が陸揚げされ、辺野古側の埋め立て工区に投入された。16日に海上作業に携わる労働者が新型コロナウィルスに感染したことが明らかとなり、17日以降は工事を中断していた。にもかかわらず、県への申請に合わせたように埋め立て工事を行った。
大浦湾に面した海岸からその様子を眺めていて、メディアが取材するのを想定し、工事を続行することを印象付けるため、あえて工事を行っているように思えた。安倍首相は市民に向かい、やれ外出するな、人と会うのを8割減らせ、と呼び掛けている。その一方で、辺野古新基地建設を強行し続けてきた。
公共工事の中には、災害対策や事故防止など緊急を要する工事があるだろう。しかし、辺野古新基地建設は不要不急の工事であり、それを止めたからといって住民の生活に支障をきたすものではない。辺野古のゲート前や名護市安和の琉球セメント桟橋前、本部港塩川区などの現場では、抗議する市民が、工事をすぐに止めるよう訴え続けていた。しかし、沖縄防衛局はそれを無視して工事を続けた。
工事を行なえば、現場の作業員だけでなく、民間警備員や県警・機動隊、海上保安庁、抗議する市民など、何百名もの人が現場に集まることになる。辺野古だけを見ても、キャンプ・シュワブに資材を搬入するドライバーを含めて、数百名の人が出入りしているはずだ。
屋外の作業であっても、朝の集合やミーティング、昼食、休憩、トイレ、シャワー、着替えなど、同じ建物の中で過ごす時間があり、共用する場所がある。人が集まればその分、感染リスクが高まるのは分かりきったことなのに、沖縄防衛局は工事を止めなかった。
そうなれば、市民も現場で抗議を続けざるを得ない。マスクを着けるのはもちろんのこと、少人数で距離をあけて、機動隊員と接触しないように自ら移動するなど、感染リスクを下げる注意をしながら、工事の即時中止を訴えていた。
日本政府・沖縄防衛局が、やっと工事を止めたのは、16日に工事関係者に新型コロナウィルスの感染者が出てからだった。同じ建物にいた14人も自宅待機となったが、そこから感染者が出ていたら、キャンプ・シュワブ内で二次感染が発生したということで、大問題となっていたはずだ。
沖縄防衛局が工事を止めたのは、沖縄県民に配慮したからではない。米軍基地内で感染を広げてはまずい、という自己保身であり、工事を請け負っている大手ゼネコンや下請け業者から、不安の声が上がったからだろう。沖縄県内でこれだけ感染が広がっていれば、家族や友人、知人を通して工事関係者からも感染者が出るのは、時間の問題だったのだ。
5月7日の黄金週間明け以降、新型コロナウィルスの感染状況を見ながら、日本政府・沖縄防衛局は、辺野古新基地建設の工事再開を急ぐだろう。それを許してはいけないが、同時に私たちは、世界史的な転換点を迎えている今日、辺野古新基地阻止、普天間基地撤去の論理を深める必要がある。
世界経済が危機に瀕する中で、軍事予算を大幅に削減し、感染症対策や貧困対策、医療・福祉、教育、環境保護の分野に予算を回す動きを世界的に作り出さねばならない。
米国に対しては、海外に展開している米軍基地を整理・縮小させることを求め、その流れの中で普天間基地について、ハーグ陸戦法規に違反して造られたことを世界に伝え、米本国への撤退、無条件返還を訴えた方がいい。
それを現実化させるために、日本国内では思いやり予算の削減を実現する必要がある。「県外移設」や「基地引き取り」と言っても、新たな場所探しをやっている間に工事は進み、実現性は低い。
米空母で新型コロナウィルスの集団感染が発生したのを見て、中国海軍が海洋覇権拡大の動きを強めることを批判し、国際協調の動きを作り出さなければならない。
それができなければ私たちは、これから先、感染症だけでなく、軍事的緊張と対立、監視社会の進行、全体主義体制の強化にも脅かされる。そういう世界にはしたくない。