小笠原みどり・白石孝著『共通番号制なんていらない』(航思社)が4月30日に出版された。「はじめに」ではこう記されている。
〈共通番号制度は、?外国籍の人たちを含む、住民登録をしているすべての個人への付番、?番号にもとづく、本人の同意を得ない個人データの共有、?番号ID(識別)カードの所持という三本柱から成り立つ。番号が使用される分野は、税、医療、福祉、介護保険、労働保険、年金の6分野で、集められた個人情報は、各分野を超えて官庁、市区町村役場で相互に交換されたり、転用されたりするようになる。法案名は「行政手続きにおける」となっているが、情報がやりとりされる範囲は官だけではなく、民間企業、団体にも広がる。
個人情報はいまや、国だけでなく、あらゆるビジネスが求める利益の源になった。官庁や大企業は、ますます私たちの収入、住所、家族構成、学歴、職歴、病歴などを知りたがり、そうした情報を私たちの背後で政治や商売に利用する。もちろん、この過程で情報の目的外使用、大量流出、詐欺、なりすまし事件が発生する。いずれにしても、国と資本は個人情報という力を一方的に蓄える。そのことが私たちの生き方に、この国の民主主義に、どんな影響を与えるかを、この本は迫っていく〉(7〜8頁)。
野田政権は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」案(共通番号法案)を2月14日に閣議決定し、国会に提出した。現在、消費税をめぐって国会では連日審議が行われているが、政府は「所得の低い人に給付付き税額控除を行うには番号制度が必要」とし、消費税の逆進性を緩和して、低所得者を救済するために共通番号制が必要であるかのように主張している。
しかし、政府のいうことを鵜呑みにするのは危険である。共通番号制は住基ネットでは禁じられていた個人情報のデータマッチング(名寄せ)や民間利用を可能とする。政府が個人情報を一元的に管理し、民間企業に活用させることによって、市民は自らの情報を一方的に利用され、監視・支配の強化がこれまで以上に進んでいくのである。共通番号制が社会的弱者を救済し、税と社会保障の公平性を実現するためにあるかのような政府の説明は、まったく欺瞞である。
住基ネットには反対していた大手メディアも共通番号制にはほとんどが賛成し、その問題点が報道されることは少ない。そのために共通番号制の実態が多くの市民によく理解されないままとなっている。共通番号制の何が問題なのか。それが導入されたら私たちの生活はどうなるのか。日本の一歩先を行っている韓国では、どのような問題が生じているのか。大手メディアはなぜ問題を報じないのか。国家による市民の監視・支配の狙い、本質は何か。そのような共通番号制の持つ問題を分かりやすく説明した一冊である。ぜひ多くの人に読んでほしい。
http://www.koshisha.co.jp/pub/archives/393