昨年4月21日に最高裁が梅澤裕氏と赤松秀一氏の上告を棄却し、大江健三郎氏と岩波書店の勝訴が確定してから1年余になる。大江・岩波沖縄戦裁判は、慶良間諸島における「集団自決」(強制集団死)の軍による命令や強制を否定し、さらに教科書記述の削除や変更、沖縄における自衛隊強化をも視野に入れて、右翼・歴史修正主義者たちによって組織的に取り組まれたものだった。
裁判は大江氏と岩波書店の全面的勝訴となった。しかし、歴史修正主義者たちによる同じような動きは形を変えて繰り返されている。沖縄戦における住民虐殺や「従軍慰安婦」などの史実を隠して日本軍を美化し、強制集団死を殉国美談にすり替えていく追求は、これからも執拗に行われるだろう。
それを許さないためにも、大江・岩波沖縄戦裁判とは何であったのかを振り返り、裁判の内容を把握することが大切になってくる。
今年2月に岩波書店編『検証・沖縄「集団自決」裁判』(岩波書店)が刊行された。被告とされた大江氏の感想や考え、裁判の経過、内容、判決の意味をはじめ、歴史修正主義者たちとの闘い、表現の自由をめぐる考察、沖縄戦の本質、支援者やジャーナリスト、教科書執筆者の見解など、同裁判の総合的な検証が行われている。新たに掘り起こされた証言を含めて、強制集団死を体験した住民の陳述書も集録されている。
裁判は終わっても、沖縄戦の史実を歪曲しようとする勢力とのたたかいは、これからも続く。八重山地区の公民教科書採択問題や第32軍司令部壕説明板問題など、いま沖縄で進行中の動きを理解する上でも参考となる記録である。記録を残して終わりではなく、大江・岩波沖縄戦裁判の成果をこれらの問題の取り組みに生かしたい。
以下の2冊とあわせて読むと、同裁判についての理解がより深まります。
沖縄タイムス社編『挑まれる沖縄戦 「集団自決」・教科書検定問題 報道総集』(沖縄タイムス社)
栗原佳子著『狙われた「集団自決」 大江・岩波裁判と住民の証言』(社会評論社)。
もう1冊紹介したいのが、この4月10日に刊行されたばかりの伊藤秀美著『検証『ある神話の背景』』(紫峰出版)である。
1970年になって作成・発行された渡嘉敷島の海上挺身第三戦隊(赤松嘉次戦隊長)「陣中日誌」と曾野綾子著『ある神話の背景』を検証し、関連する資料と比較・照合して書き換えられた部分や矛盾点などを明らかにしている。緻密な作業を重ねて問題点を浮き彫りにし、曾野氏の取材・執筆方法への厳しい批判がなされている。多くの人に読まれてほしい労作である。