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秋山昌廣元防衛事務次官と尖閣諸島問題

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 琉球新報電子板に2012年1月15日付で、〈石垣市、海洋計画策定に着手 尖閣周辺の活用視野〉という見出しの記事が載っている。

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-186283-storytopic-3.html

 〈海や川の利活用、保全〉について多角的に検討し、方針を定めることを目的とした委員会だが、尖閣諸島や海洋資源、海底資源も対象となることから、〈台湾や中国など周辺諸国との関係性について市の考え方を示す予定だ〉という。
 委員の中で目をひくのが、〈元防衛事務次官で海洋政策研究財団会長の秋山昌廣氏〉という人物である。秋山氏の経歴はウィキペディアによると、大蔵省主計局主計官を勤めたあと、奈良県警本部長、東京税関長を経て防衛庁長官官房審議官、人事局長となり、最後は防衛事務次官として1998年に退職している。海洋政策研究財団の会長になったのは2001年4月である。
 ところで、「新しい歴史教科書をつくる会」のホームページを見ると、秋山氏は同会の賛同者として名を連ねている。肩書きはシップ・アンド・オーシャン財団会長となっているが、同財団は海洋政策研究財団の正式名称である。

http://www.funatsudenshi.com/toshi_nishida/zatsudan/050427atarashiirekishi/06_support050406.htm

 昨年来、八重山地区では育鵬社の社会科公民教科書をめぐる採択問題で揺れ続けている。育鵬社は「新しい歴史教科書をつくる会」から分裂した「教科書改善の会」が出版する教科書の版元である。秋山氏はその「教科書改善の会」が発足する際にも、賛同人として名を連ねている。

http://kyoukashokaizen.blog114.fc2.com/?mode=m&no=1

 秋山氏が会長を務める海洋政策研究財団のホームページの沿革を見ると、同財団は1975年12月に財団法人日本造船振興財団として設立されている。当初は造船業や関連工業、運輸などの経営指導、事業資金融資、技術研究、国際交流などを中心にやっていたのが、しだいに事業内容を広げ、2000年に海洋シンクタンク事業を開始し、現在では海洋分野全般にわたる調査・研究活動を行っている。

http://www.sof.or.jp/jp/index.php

 ホームページの「月報・季報」「報告書・出版部物」の項目を見ると、近年では海洋安全保障の分野に力を入れているのが分かる。事業概要を見ても、海洋政策や安全保障、領土問題などの分野で政策提言を行ったり〈一般国民への普及活動を強化〉している。
 1975年に日本造船振興財団を設立したのは、右翼でA級戦犯だった笹川良一氏が創立し、初代会長を務めた日本船舶振興会(現在は公益財団法人・日本財団)である。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%B2%A1%E5%9B%A3

 笹川氏に続いて同会(財団)の2代目会長として1995年から10年間勤めたのが、小説家の曾野綾子氏である。言うまでもなく曾野氏は、渡嘉敷島の強制集団死問題を扱った『ある神話の背景』の作者である。
 以上を見ると、秋山氏は元防衛事務次官として政府・防衛省と繋がっているだけではない。「新しい歴史教科書をつくる会」や「教科書改善の会」(育鵬社)、曾野綾子氏とも繋がる人物である。こういう人物が石垣市の海洋基本計画の策定で、特に尖閣諸島問題について大きな影響を与えていこうとしている。
 海洋政策研究財団のホームページの〈ニューズレター〉には、秋山氏の「尖閣諸島事件と国家戦略」と題した評論が載っている。

http://www.sof.or.jp/jp/news/201-250/250_2.php

 尖閣諸島問題の経緯や中国の海洋政策・戦略の分析にふまえて、秋山氏が打ち出している日本の取るべき〈国家戦略〉とは次のようなものだ。

 〈将来的には軍の交戦も否定できないが、日本としては海上保安の実力であらゆる事態に対処できるよう、その実力の強化と態勢の整備を行わなければならない。実効支配の徹底としては、島の上そのものの支配を含めるべきである。また、中国の進めている輿論戦、法律戦は日本にとっても良いお手本であり、国際社会に向け、あるいは中国の国民に向け積極的な発信が効果的である〉

 〈中国の海洋戦略に対しては、航行の自由や海洋利用の自由を前面に出し、米国とともに中国をけん制しなければならないが、そのためには海上自衛隊の増強と日米同盟の強化が必要である。さらに、大国中国への対応だが、重商主義的な行動に走る中国を現代の国際秩序に組み入れることが重要であり、また中国に対する日本の姿勢は、配慮ではなくて明確な意見表明でなければならないと考える〉

 この提言はたんなる研究者のものではない。元防衛事務次官として、秋山氏の提言は政府・防衛省の意向を踏まえたものだ。政府・防衛省とのパイプを生かし、相互利益を図ることが財団に天下った元防衛官僚の役割である。中国に対し〈輿論戦、法律戦〉の実行や経済面で〈国際秩序に組み入れること〉なども触れられているが、主たる内容は〈海上自衛隊の増強と日米同盟の強化〉によって〈海上保安の実力〉を強化し、態勢整備を行って〈中国の海洋戦略〉に対抗するというものである。
 そして、尖閣諸島に関して〈実効支配の徹底としては、島の上そのものの支配を含めるべきである〉と主張している。〈島の上そのものの支配〉とは、尖閣諸島への上陸を常態化し、施設を建設することなどであろう。それこそ今、石原慎太郎東京都知事や中山義隆石垣市長が追求しているものである。中山市長が秋山氏を委員に選んだのも、尖閣諸島の〈島の上そのものの支配〉、〈海上自衛隊の増強と日米同盟の強化〉という主張を、石垣市の海洋基本計画に反映させるためであるはずだ。
 しかし、強硬策は必ず対抗的な強硬策を呼び起こす。圧倒的な力の差がない限り、強硬策を押し通し相手を屈服させることはできない。秋山氏は〈将来的には軍の交戦も否定できないが〉と書いているが、我が身には〈軍の交戦〉による被害が及ばないと考えているからこそ、客観的な分析であるかのようにして、そう書けるのである。地元住民からすれば、それだけは絶対に回避しなければならないのは、大前提である。

 〈同時に、日中間の信頼醸成、特にアジアからも求められている日米と中国との間の信頼醸成の向上への努力と、この2国間あるいは3国間の関係の積極的発展を追求しなければならない。対立、対抗のみでは問題は解決しないからである〉

 秋山氏は最後の所でこう記しているが、この主張はおおむね正しい。しかし、石原知事が進めている尖閣諸島の東京都購入計画や、政府・防衛省が進める先島への自衛隊配備が、〈日米と中国との間の信頼醸成の向上〉に繋がるだろうか。おそらくは逆だろう。石原知事にもそのような信頼醸成の意思があるとは思えない。むしろ〈日米と中国との間の〉軍事的対抗を煽り、〈軍の交戦〉さえ生み出しかねない方向へと、日本の政治状況は進みつつあるように見える。
 公民教科書採択問題や自衛隊部隊とPAC3配備問題、尖閣諸島購入問題と立て続けに先島地域が焦点化される中で、秋山氏の動きにも注意しておく必要がある。石原知事と連携しつつ中山市長が尖閣諸島に積極的に関わるとき、秋山氏もそれに連動した動きを示すだろう。石垣市の海洋基本計画にも市民が関心を寄せ、その内容チェックして積極的に発言してほしい。中国であれ日米であれ、軍事力の強化で東シナ海を争いの海にする動きには、沖縄から反対の声をあげなければならない。それが沖縄人にとって我が身を守る最良の方法である。

 

 


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