4月22日から23日にかけて田中直紀防衛大臣が来沖した。真っ先に訪ねたのは石垣市の中山義隆市長で、22日には石垣市内の料理店で非公式の会談も行っている。PAC3配備に関してのお礼だけでなく、石原慎太郎東京都知事の尖閣諸島購入計画についても話題になったという。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120423-00000006-ryu-oki
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2012-04-23_32877/
田中防衛大臣も中山市長も表向き、東京都の尖閣諸島購入計画について踏み込んだ議論をしていないかのように装っている。しかし、それを真に受けるわけにはいかない。中山市長は23日の午前中に田中大臣と面会したあと、午後には東京に飛んで石原知事と面会し、「知事の考えに賛同しながら協力体制を作りたい」という考えを示すなど、活発に動いている。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20120424-00000005-ann-soci
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2012-04-23_32886/
この間の動きを時系列で整理してみる。
4月3日 北朝鮮の人工衛星打ち上げに対し政府・防衛省は、弾薬を積んだミサイルの発射であるかのように描き出して脅威を煽り、沖縄県の那覇市・南城市・宮古島市にPAC3部隊を配備。
4月5日 石垣市にもPAC3部隊が配備され、県内4箇所への配備完了。
4月13日 北朝鮮が人工衛星打ち上げに失敗。Jアラート作動せず。
4月14日 PAC3部隊の撤収作業始まる。
4月17日未明(日本時間) 石原知事が米国ワシントンのヘリテージ財団で、東京都の尖閣諸島購入計画を明らかにする。
4月19日 PAC3部隊の沖縄県からの撤収が完了。
4月19日 石垣市議会が、尖閣諸島を国が購入し、市に払い下げるよう求める意見書を賛成多数で可決(賛成10、反対7、退席1、欠席3)。
4月22〜23日 田中防衛大臣来沖。中山市長らと面会。
4月23日 中山市長が東京で石原知事と面会。都の尖閣諸島購入計画に賛同と協力の意を示す。
この3週間の一連の動きは、偶然に出じたものではない。北朝鮮の「ミサイル」と中国の「領海・領土侵犯」という二つの「脅威」を連続して打ち出し、強調することで、先島地域住民の不安を煽って国防意識を植え付け、自衛隊配備の地ならしを進めようという意図が透けて見える。尖閣諸島に関しては、石原知事と中山市長の間で密接な連携が取られているだろうし、防衛省の官僚や族議員も動いているはずだ。
一連の動きの裏で、与那国島の沿岸監視部隊に続いて、石垣島にも陸自部隊を配備する計画が、具体的に進められていることも考えられる。すでに自衛隊基地の建設場所をめぐって、土地ブローカーなどが動いていないか注意が必要だろう。米軍であれ自衛隊であれ、新たな部隊の配備と基地建設が進められるとき、「愛国者」を気取った政治家や××コンサルタントなど、利権狙いの胡散臭い連中がうごめくものだ。
石原知事のような人物が、ただの「愛国心」で動いていると考えるのは、大きな間違いである。尖閣諸島の東京都による購入が実現すれば、石原知事のことだから実効支配の強化を打ち出し、上陸調査に続き施設の建設に乗り出すだろう。中国がそれに反発して、尖閣諸島周辺で対立と衝突が起こることを、石原知事は望んでいるのではなかろうか。尖閣諸島を使って日本国内の排外的ナショナリズムに火をつけ、自らの政治的影響力の拡大に利用しようという魂胆ではないか。
そうやって尖閣諸島周辺で実際に危機を発生させれば、それは石垣島や宮古島への自衛隊配備の格好の口実ともなる。しかし、もし尖閣諸島をめぐって日中間で本格的な争いが生じれば、先島地域の経済は大きな打撃を受け、住民の生活も危険にさらされる。その影響の大きさは、北朝鮮の人工衛星打ち上げをめぐって、観光旅行のキャンセルが生じたのとは比較にならないだろう。
石垣市の中山市長は以前、小田原市長の所信表明・施政方針を盗用するという、前代未聞の浅はかな行為を行っている。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-162491-storytopic-3.html
政治家としては未熟なのにタカ派意識だけは旺盛で、石原知事の「愛国者」ぶった言葉に踊らされ、浅はかにも利用されるなら、中山市長だけでなく石垣市民全体が痛みを味わいかねない。尖閣諸島をめぐって紛争が生じても、石原知事は痛くも痒くもない。しかし、石垣市だけでなく沖縄全体に打撃を与えるのは必至だ。
問題はたんに、尖閣諸島をどこが購入するかにあるのではない。あえて「領土問題」を激化させることで、先島への自衛隊配備をはじめ、沖縄の基地強化を一気に進めようという動きにこそ、目を向ける必要がある。北方領土や竹島については何も触れず、尖閣諸島が「領土問題」として焦点化されているのは、中国との軍事的対抗を強め、東シナ海に紛争を引き起こすことで利益を得ようとする日本と米国の保守・タカ派の意思による。世に「愛国者」を気取る政治家ほど胡散臭いものはない。