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南へ打ち上げるからミサイルという嘘

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 今日4月1日は沖縄島中部西海岸に米軍が上陸した日である。県内の夕方のニュースでは、読谷村のチビチリガマで慰霊祭が行われたことが報じられていた。戦争の犠牲になった人々に静かな祈りを捧げるべき日なのだが、沖縄をきな臭いにおいに包もうという策動が進められている。

http://www.okinawatimes.co.jp/article/2012-04-01_31860/

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-189405-storytopic-3.html

 琉球新報社は「りゅうPON!」という小中学生向けの新聞を、週1回日曜日に発行している。4月1日付「りゅうPON!」1面トップに〈北朝鮮が打ち上げるのは?〉〈人工衛星だと主張していますがミサイルなのです〉という見出しで、池上彰氏の文章を載せている。

〈北朝鮮が4月中旬に「人工衛星を打ち上げる」と発表したことに対して、日本やアメリカ、韓国は猛反発しています。実際は、長距離ミサイルの発射実験だからです。人工衛星を打ち上げるのなら、東向きが通常コースなのですから〉

 池上氏は、地球の引力を脱するために地球の自転速度を利用する必要があり、そのため〈日本を含めて各国とも〉人工衛星搭載ロケットを〈東へ向けて発射しています〉と説明する。それ自体は常識的なことだが、だから北朝鮮が南へ向けて発射するのは〈長距離ミサイルの発射実験〉と断定するのは、論理の飛躍である。

 2009年4月19日付琉球新報に以下の記事が載っている。

〈韓国初衛星/沖縄上空通過も/7月打ち上げ/日本政府は静観
 韓国が今年七月末、南部の「羅老宇宙センター」から打ち上げる予定の初めての人工衛星搭載ロケットについて、日本の領海上空を通過する経路設定で最終調整していることが十八日、分かった。複数の日韓関係筋が明らかにした。
 
 計画しているロケットは二段式。現在のところ九州南西部から沖縄本島にかけての上空を通過する可能性が高い。その場合、一段目は九州近海の東シナ海に、二段目はフィリピン南東沖に落下する見込みという。
 五日に北朝鮮が秋田、岩手両県上空を通過する形でミサイルを発射したばかりだが、日本政府は「韓国の場合、宇宙の平和利用であるのは明らかだ」として、発射を静観する方針だ。
 日本政府関係者によると、韓国側は打ち上げに関する非公式協議で「日本の領空権の及ばない高度二百キロ近くの宇宙空間を飛行する予定だ」と説明しているという。
 ただ、打ち上げに失敗すれば日本の領土や領海にロケット本体や破片が落下する可能性が排除できないため、安全面から「他国上空の通過は避けるのが一般的」(外務省)とされる。
 東シナ海は航行船舶や操業漁船も多く、韓国の打ち上げが増加すれば、日本政府として十分な安全対策や経済活動への配慮を求めることも検討している。 
 今回、韓国が打ち上げるのは一段目にロシアの技術を導入した「KSLV−?」(全長約三十三メートル)で小型実験衛星を搭載する〉

 このときの韓国のロケット打ち上げは、トラブルから延期がくり返され、8月25日に実施された。〈1号機は南方の東シナ海に打ち上げられた。沖縄近海の上空を通過し、高度300km以上まで上昇したが、搭載した衛星(STSAT-2A)の楕円軌道への投入ができず、打ち上げは失敗した〉(ウィキペディア)とされる。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%85%E8%80%81

 南向きに発射されるから長距離ミサイルだというのなら、池上氏は2009年8月に打ち上げられた韓国の人工衛星搭載ロケットも、実は長距離ミサイルだった、というのだろうか。もっとも、池上氏は「りゅうPON!」の記事では、以下のように逃げ道を作っている。

〈ただし、北朝鮮は今回、「地球観測衛星」だと言っています。地球を観測する衛星は、北極と南極を通ると好都合なので、南に向かって打ち上げられます。北朝鮮にそれだけ強力なエンジン開発ができたかわかりませんが、言い訳できるような理由をつけています〉

〈言い訳できるような理由をつけて〉いるのは池上氏の方ではないか。池上氏はさらにこう続けている。

〈要は遠くまでミサイルを飛ばす力を見せつけたいのですね。南に向かって打ち上げ、「アメリカのグアムやハワイに届くだけの力があるぞ」と脅しているようにも見えます〉

 飛距離を誇示したいのなら方向は関係ない。池上氏は朝鮮半島から南(沖縄方向)に打ち上げれば、その延長線上にハワイやグアムがあると考えているのだろうか。地図ぐらい確かめてから書いてほしいものだ。結局、池上氏は、南に打ち上げるから長距離ミサイルだ、と読者に印象づけようとしているだけにすぎない。

 紹介した琉球新報の記事にあるように、2009年4月5日にも北朝鮮の人工衛星打ち上げをめぐって、政府・防衛省はマスコミを利用して危機を煽り、東北地方を中心とした大防空演習を行っていた。その時は東に向かって打ち上げられたのだが、結局、東だろうと南だろうと違いはない。北朝鮮が人工衛星を打ち上げれば、日本政府・防衛省はそれを利用して危機を煽り、PAC3の移動・配備訓練を行い、自衛隊強化に結びつけるのである。
 あたかも科学的な説明であるかのような「りゅうPON!」の池上氏の文章に接して、実際にミサイルだと信じ込む人もいるだろう。韓国の人工衛星打ち上げのときも〈沖縄近海の上空を通過〉していたことを憶えている人なら、おかしさに気づくかもしれないが、そういう人はどれだけいるだろうか。その時は何の騒ぎにもならなかったのだから、憶えている人が少なくても無理はない。
 だが、当時の琉球新報の記事を読めば、現在進められているPAC3の沖縄・先島配備のおかしさに気づくはずだ。〈打ち上げに失敗すれば日本の領土や領海にロケット本体や破片が落下する可能性が排除できない〉のは、韓国も北朝鮮も同じである。友好国かどうかに関係なく〈ロケット本体や破片〉の〈落下〉を防止しなければならないはずだ。しかし、韓国の人工衛星打ち上げの時には、政府は何の対処もしなかった。する必要がなかったからだ。仮にPAC3を配備しても落下する破片は防げない。今回も状況は同じである。
 今回の人工衛星打ち上げに際し、北朝鮮はNASAの専門家を招待している。

http://www.asahi.com/international/update/0327/TKY201203270270.html

 池上氏がいうように長距離ミサイルなら、北朝鮮はNASAの専門家を招待するだろうか。米政府・国防総省はすでに北朝鮮のロケットを偵察衛星で分析し、搭載されているのが人工衛星だと判断して、日本政府・防衛省にも情報を送っているのではないか。
 北朝鮮が打ち上げるのは〈ミサイルなのです〉と、断定的な見出しを掲げ、県内の小中学生の恐怖を煽る「りゅうPON!」の記事は悪質である。琉球新報社の見識を疑う。


 


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