敗戦から69年、一夜明ければ集団的自衛権行使容認の閣議決定がなされ、自衛隊が海外で米軍の属軍として戦争を行いかねないという、歴史を画する状況がもたらされようとしている。首相官邸前の数万人のデモから上がる容認反対の声や、慎重審議を求める地方議会の決議、立憲主義の破壊を戒める憲法学者・文化人の批判、反対が多数を占める世論など、そのすべてを無視して、安倍晋三首相は戦争をできる国へと突っ走っている。
安倍首相は自らが政権の座についている間に、日本という国のあり方を根本から変え、後戻りできない地点にまで推し進めようという考えなのだろう。ブレーキの役割を果たし得る野党が存在しない今、このA級戦犯の孫はどこまで暴走していくか分からない。その独裁者然とした動きから改めて昨年12月26日の靖国神社参拝を振り返ると、安倍政権の危険性がいっそう浮き彫りになる。
昨年の12月25日に安倍首相は、沖縄県の仲井真弘多知事と会談し、辺野古埋め立て容認の確約を取り付けた。翌26日、安倍首相は靖国神社に参拝した。その日は中国共産党の創立者の一人であり、中国の初代国家主席でもあった故毛沢東の誕生日だった。しかも生誕120年の記念日であり、そういう日に中国が最も反発する靖国神社参拝を強行したのだ。
習近平国家主席からすれば、面子を潰された、と捉えたかもしれない。わざと習主席を怒らせ、中国共産党と人民解放軍の幹部を挑発する。現在の国内政治で安倍首相がやっている強権的な政治手法を見れば、昨年12月26日の靖国神社参拝は、日中関係をこじらせるための計算尽くの行為だったとしか思えない。その結果、中国と韓国の間で歴史認識をめぐり対日批判の関係強化が作り出されている。日中間の火種を弄ぶような手法が外交面でもたらすマイナスも、安倍首相には織り込み済みなのだろう。
石原慎太郎衆院議員が東京都知事時代に尖閣諸島の購入を打ち出し、それに対応を迫られた民主党の野田政権が同諸島を国有化した。日本が棚上げ状態を破棄したことによって、中国との間で「領土・領海問題」が一気にエスカレートし、軍事的緊張が高まった。安倍首相はそれを沈静化させるどころか、さらに火に油を注いだ。日中関係を悪化させることによって中国の脅威を煽り、排外的ナショナリズムをかき立てた。
沖縄からはその効果がよく見える。辺野古新基地建設や先島への自衛隊配備を進めるうえで、尖閣諸島をめぐる中国との緊張の高まりは、大きな推進力として利用された。集団的自衛権の行使容認の議論でもそうだ。東アジアにおいて中国が軍事的影響力を拡大し、日本の領土・領海を脅かすのに対抗するためには、米軍と自衛隊の連携強化、相互防衛が必要である、という国民意識の形成が図られていった。
中国に対する外交・防衛面での安倍首相の強硬にして挑発的な姿勢は、沖縄にとって極めて危険なものだ。日中間の対立がさらに悪化して、尖閣諸島周辺で軍事衝突が発生すれば、その影響を真っ先に受けるのは沖縄である。八重山・宮古住民の生活と安全が直接的に脅かされるのはもとより、沖縄旅行のキャンセルによって観光産業が大きな打撃を受け、沖縄経済の混乱と衰退は一気に進むだろう。
中国に対して安倍首相がいくら強気の姿勢を見せても、しょせんは虎の威を借る狐である。中国に対抗するためには、是が非でも在沖米軍の現有戦力を維持し、米海兵隊を引き止めなければならない。そのためには米国・米軍が望むように沖縄の基地を整備する。そういう意思を固めて安倍首相は、辺野古の海底ボーリング調査や高江のヘリパッド建設工事において、沖縄県民を力でねじ伏せようとしている。
それに屈してしまえば、沖縄は中国と対抗する米日両軍の拠点として、これまで以上に利用され、いつか破局的事態を迎えかねない。そういうことを許してはならない。ウチナンチューにとって、大きな試練が始まる7月となる。