23日は沖縄県の慰霊の日で、糸満市へ行って「沖縄全戦没者追悼式」に参加し、健児の塔、島守の塔、ずゐせんの塔で行われた慰霊祭の様子を見た。最後は魂魄の塔に行き、海岸を歩いてから那覇に移動したのだが、各慰霊塔に向かって祈っているお年寄りの姿を見ていると、戦争で死んだ肉親、学友、同僚への思いがひしひしと伝わってきて、胸がつまった。
23日は沖縄の各地で慰霊祭が行われたのだが、地域の慰霊塔の前で行われる慰霊祭に比べて、沖縄県・沖縄県議会が主催する「沖縄全戦没者追悼式」は、参加している県民の思いからどんどん離れているように見えてならない。要人警護と称して黒いスーツやかりゆしウエアーをきたSP、県警、県職員が要所を固め、会場を囲ったロープの外側からは発言者の姿も見えない。入場の際には金属探知器を通され、手荷物もチェックされる。海では海上保安庁の船が、空では県警のヘリが警戒している。物々しい雰囲気は、もはや慰霊の空間とは言えない。
さらに、発言に立った仲井真知事と安倍首相の空々しい言葉が、追悼式の形骸化を進行させている。今年の追悼式の「平和宣言」から「県外移設」という言葉が削除される。そう報道されて仲井真知事への批判が急速に高まるなか、県当局は急遽〈県外への移設〉という言葉を入れて調整したようだ。しかし、発表された「平和宣言」は文章が短いだけでなく、その内容が目を覆いたくなるほど貧しい。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140623-00000016-okinawat-oki
これが20万余の沖縄戦の犠牲者を悼んで県が発した「平和宣言」なのだから、恥ずかしい限りだ。この「平和宣言」のどこから犠牲者への追悼の思いが感じとれるか。戦争を否定する意思が伝わってくるか。「県外移設」という言葉が入っているかどうか以前に、ここまで淡泊で、形だけの宣言文しか書けないほど、仲井真知事のスタッフは無能なのか。
別に文学的美文を書けとは言わない。だが、沖縄戦で犠牲になった人々、摩文仁にやってくる、あるいは各地で祈りを捧げる県民の思いに、少しでも感応力と想像力が働くなら、もっと人の心に届く文章になるはずだ。この「平和宣言」には、そういう県民の心情に寄り添おうという意思、苦しみのなかで死んでいった戦死者への想像力が、まるで感じられない。
〈県外への移設をはじめとするあらゆる方策を講じて〉という言葉の空々しさは、書いているスタッフ、読み上げている仲井真知事自身が、一番よく知っているはずだ。昨年末に辺野古埋め立てを容認し、来る7月にはボーリング調査が開始されようとしているのに、何が今さら〈あらゆる方策を講じて〉だろうか。〈私は普天間飛行場の5年以内の運用停止を求めているのです〉と言ったところで、安倍首相との口約束に過ぎないそれが実現すると信じる県民がどれだけいるか。
県内紙では今回、〈県外への移設〉という言葉を入れた背景に、県知事選挙に向けて公明党の反発を怖れた自民党県連の働きかけがあったことを指摘している。「平和宣言」の文言が、仲井真知事と自民党県連、公明党の選挙対策の駆け引きの材料として扱われたということであり、県民を愚弄するにもほどがある。
いざ辺野古でボーリング調査が始まれば、反対する住民と作業員、警備員、漁民などがぶつかりあい、混乱のなかで怪我人が出る可能性もある。自分たちは矢面に立たずに県民同士が争う構図を作り出し、高見で見物しようとするのが、沖縄防衛局の卑劣なやり口である。その結果として県民同士が血を流しあう事態になれば、その大きな責任は安倍首相だけでなく、仲井真知事にもある。知事はそのことをはっきり自覚すべきだ。
安倍首相の発言は、毎日新聞電子板に要旨が載っている。
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/politics/mainichi-20140623k0000e010228000c.html
〈米軍基地の集中が今なお沖縄県民の大きな負担となっています。基地の負担を能(あた)うる限り軽くするため、沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら「できることはすべて行う」との姿勢で全力を尽くしていきます〉
〈沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら〉というなら、県民の7割以上が反対している普天間基地の辺野古「移設」をまず止めなければならない。しかし、そういう気持ちは安倍首相には毛頭ない。基地の「負担軽減」どころか「運用改善」すら米軍の意向を優先し、米軍のために「できることはすべて行う」というのが実態である。仲井真知事も安倍首相も、戦争のための基地を新たに造ろうとしているのであり、「恒久平和」を否定して戦争をできる国へと向かっている実態を隠すため、全戦没者追悼式典を政治的に利用しているだけだ。
https://www.youtube.com/watch?v=38Ia822km6Q
安倍首相は追悼式後、島守の塔に足を運び、記者の取材に答えてから、警備陣に守られて平和祈念公園を去った。沖縄戦が迫るなか赴任した島田知事を、死を覚悟して任務を全うした公務員の鑑、と讃えたいのだろうか。
「沖縄全戦没者追悼式」には、米軍や自衛隊の幹部も軍服姿で参加している。集団的自衛権の行使容認に突き進む安倍首相と、政府の意に沿って辺野古新基地建設を進める仲井真知事のもとで、自衛隊も着々と強化され、琉球列島の軍事要塞化が進められている。その流れの中で、「沖縄全戦没者追悼式」の形骸化と平和祈念公園のヤスクニ化が進むことを警戒し、それを許してはならない。