1月14日に那覇市牧志駅前ほしぞら公民館で共通番号制度についての学習講演会が開かれ、35名の参加があった。講師の白石孝さん(プライバシーアクション代表)が共通番号制度とその問題点について1時間ほど講演し、そのあと会場からの質問や意見を受けた。
政府は共通番号制度の導入によって納税や医療・介護・年金などの情報が一元的に管理され、市民の利便性や社会保障の充実が図られるという。しかし、マニフェストを全てひっくり返した今の民主党政権が言うことを信じられますか、と講師は問いかけ、共通番号制度の危うさを浮き彫りにしていった。
国の財政危機が強調され、医療・福祉予算の緊縮が追求されている中で、共通番号制度はむしろ「無駄」を洗い出すために利用され、〈生活保護、介護、障害者、高額医療などの精査が進む〉(講師資料)。それによって市民一人ひとりが受ける社会保障の内容は、むしろ縮小を強いられるのが落ちである。
また、昨年の3・11大震災と原発事故を利用し、政府は共通番号制度の災害時の活用を謳っている。しかし、3・11以前にはそのような項目はなかったことが指摘され、実際に被災した気仙沼市の職員のレポート「震災の現場から(社会保障)共通番号制を考える」を資料として示しながら、政府の主張が現実離れしていることが批判されていた。レポートにはこう記されている。
〈 国が共通番号を通じて、いろいろな利点を言えば言うほど、特にそのことが震災で役に立つなどと、言われれば言われるほど、「現場を知らない」官僚とがっぽり儲けるであろう開発メーカーに対して腹が立ちます 〉
共通番号制度が導入されれば、全国民・法人に番号が割り振られ、拒否することはできない。一生涯その番号によって個人情報が国に管理されることになる。民間利用の推進やカードへの番号表示など、住基ネット以上に問題は深刻であるにもかかわらず、政府による報道機関の絡めとりが進み、報道されること自体が少ない。
今回の学習講演会では、1月29日に那覇市民会館で予定されている「番号制シンポジウムin沖縄」に向けての意見交換会も持たれた。その中では、同シンポジウムを琉球新報社、沖縄タイムス社、全国地方新聞連合会が共催していることが批判された。主催は番号制度創設推進本部だが、シンポジウムの事務局は内閣官房社会保障改革担当室に置かれている。つまり、政府が主催し「社会保障・税に関わる番号制度」(共通番号制度)を推進するために設けられたシンポジウムを、沖縄の新聞社が共催しているのである。
かつて個人情報保護法の制定が問題となったとき、沖縄のマスコミ労協はこれに反対するシンポジウムを開いていた。住基ネットに関しても、沖縄のマスコミ労働者の多くは批判的な視点を持っていたように思う。政府は共通番号制度実現のために、マスコミの批判的論調を抑え込もうと計略をめぐらせた。その一つがシンポジウムの共済団体として報道機関を引き込み、絡めとることである。
本来、政府、権力の監視機関であるべき報道機関が、政府の政策を推進するシンポジウムを共催すること自体、大きな問題である。そこにおいてはもはや報道の客観性や中立性もあり得ない。基地問題や沖縄戦の報道などで沖縄の新聞社はすぐれた報道をしているかもしれないが、「番号制度シンポジウムin沖縄」の共催は、政府、権力との馴れ合いでしかなく、報道機関としての堕落を示すものだ。
沖縄は基地問題が大きな課題としてあるため、その陰に隠れがちだが、共通番号制度についてもぜひ注目してほしい。