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〈 季刊 目取真俊 〉29回

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 以下の文章は4月21日付琉球新報に〈季刊 目取真俊〉29回として、〈「自宅待機」という放棄/空気感染の軽視、追及を〉という見出しを付けて掲載されたものです。

 

 新型コロナウイルスの感染拡大が問題となってから、感染症の専門家や現場の医師たちの発言をメディアやインターネットで目にするようになった。その中の一人にインターパーク倉持呼吸器内科院長の倉持仁氏がいる。時には政府の感染症対策を厳しく批判し、医療現場の状況を患者の立場に立って発信しており、学ばされることが多い。

 その倉持氏がユーチューブに「11ケ月の乳児がコロナにかかり自宅待機でお亡くなりになられた。お父様の忸怩たるおもいについて」と題した動画を3月16日に投稿している。亡くなった乳児の父親が、実名で倉持氏に訴えてきたことを紹介する内容だ。

 動画によれば、臨月の母親がPCR検査で陽性と分かり入院することになった。父親と子ども3人も陽性が判明したが自宅待機となった。父親は一人で子どもたちの世話をしなければならなくなり、その中で、11か月の乳児の容体が急変し、亡くなってしまった。その経過が説明されるとともに、自分の判断や言動に後悔し、保健所と病院の対応に疑問を抱く父親の思いが、切々と語られている。

 乳児が発熱した時、連れて行った病院では1分ほどしか診察してもらえず、医師は肺炎の疑いを口にしながらレントゲン検査はしなかったという。容体が急変した時も、近くの病院では診察を断られ、別の病院に車で向かっている途中、呼吸が止まってしまった。駆け込んだ病院で呼吸が止まっていることを訴えても、新型コロナウイルスに感染しているということで対応が遅れ、乳児は亡くなってしまった。

 父親は当初、症状が出ていないから入院は無理だろう、と考えてしまったようだ。保健所から血中酸素濃度を測るパルスオキシメーターを配布されていたが、乳児は指が小さく、きちんと測れなかったという。熱も一時的に下がったので安心してしまった面もあったようだ。

 私が父親だったら……と考える。自分を含め家族全員が感染した状態で、3人の子どもの世話をできる自信はない。普通の状態でも、乳児一人の世話をするだけで手一杯だろう。医療の知識もないのに、病変を予測し、対処できないのは分かりきっている。まさに自宅待機という名の自宅放棄としか言いようがない。

 新型コロナウイルス感染の第6波は、オミクロン株への置き換わりによって感染者が爆発的に増えただけではない。死者もこれまでの波を越えて増えている。にもかかわらず、メディアが伝えるのは数字だけで、個々の患者の事例についてはほとんど伝えられない。本来なら入院して隔離、治療すべきところを自宅待機・自宅療養という形で放置され、亡くなる事例は全国各地で起こっているはずだ。

 新型コロナウイルスの感染が広がって1年ほどは、感染者個々人の体験や医療現場の現実、入院しても面会できず、臨終にも立ち会えない問題などが、テレビや新聞で伝えられていた。自宅待機を強いられているなかで、容体が急変して亡くなる患者の問題も、遺族の思いを含めて報道されていた。それらの問題は克服されたのか。いや、むしろ悪化しているのではないか。

 最近は重い症状が出なければ、自宅待機や自宅療養をするのが当たり前のような風潮さえありはしないか。感染症は隔離が原則、と言われているが、アパートや団地暮らしの世帯でどうやって隔離するというのか。必然的に家庭内感染が増え、子ども達の感染も増加しているが、子ども達の入院施設はどれだけ確保されていて、家族一緒に入院できる施設はどれだけあるのか。

 これらは今に始まった問題ではないはずだ。新型コロナウイルスの感染が広まってしばらくは、いずれウイルスの弱毒化が進み、集団免疫ができて感染が収まっていく、という楽観的な見通しが語られていた。しかし、次々と変異株が生まれて感染力が増し、無症状者が感染を広げて高齢者や基礎疾患を持つ人が重症化し、死亡するという実態は変わらないままだ。それどころか、季節性要因が言われていたのに、冬場の感染拡大が収まりきらないまま、黄金週間を迎えつつある。

 3月28日に国立感染症研究所(以下感染研)のホームページに、新型コロナウイルスの感染経路についての記事が載り、エアロゾル感染(空気感染)が明記されたことが波紋を呼んでいる。感染研はこれまで、飛沫感染と接触感染を主な感染経路としてきた。それが世界の常識とかけ離れているとの批判が相次ぎ、やっとエアロゾル感染(空気感染)を明記したのだ。

 ウイルスを含む微細な粒子が空気中をただよい、換気の悪い場所では離れた人も吸い込んで感染する。煙草の煙をイメージすればいいが、それが主な感染経路なら、対策も窓やドアを開け、換気扇や空気清浄機を設置するなどが重点となる。

 空気感染を軽視してきた感染研の問題は、医系技官制度の問題と併せてこれまでも批判されてきた。政府の感染症対策にも影響を与えてきたのであり、本来、メディアはこれらの問題をもっと大きく取り上げ、追及すべきだ。

 


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