以下の文章は2021年10月15日付「琉球新報」に掲載されたものです。
9月29日に自民党の総裁選挙が行われ、新総裁に岸田文雄氏が選出された。10月4日には衆参両院本会議で首相指名選挙が行われ、岸田新政権が発足したが、直後に行われた世論調査での支持率の低さが話題になった。
一番低い朝日新聞の45パーセントから一番高い日経新聞の59パーセントまで幅があるとはいえ、政権発足時の支持率として想定外の低さという評価は一致している。新型コロナウイルスの感染が収まっている間に新総裁誕生の勢いに乗って衆議院選挙を短期決戦に持ち込む、という自民党の思惑に狂いが生じている。
とはいえ、支持率が3割台に低迷していた菅政権のもとで選挙をやるよりはまし、という見方が自民党内にはあるだろう。だが、有権者から見れば、菅政権から岸田政権に替わって何が変わったというのか。
「安倍・麻生・甘利」という3Aの影響下にある点で何も変わらない。「改革」を掲げた河野・石破・小泉氏らのグループは敗北して干され、旧態然とした政治が続くだけではないか。そういう認識が有権者に広がれば、岸田政権の支持率はさらに下がる可能性がある。
民主党政権が倒れ、第二次安倍政権が発足したのが2012年12月26日だ。あれから9年近くが経とうとしている。この間、日本の政治は腐敗・堕落が深まる一方だった。
その最大の原因は、安倍晋三元首相による政治の私物化にある。森友学園問題や加計学園問題、桜を見る会の問題など、自らと親密な関係にある者に便宜を図り、支持者への接待を公費で行う。それが問題となって国会で追及されると、公文書の改ざんまで行って事実を隠蔽する。これが安倍政権でくり返されてきたことだ。
安倍首相・菅官房長官の体制下で、内閣人事局は官僚支配の道具と化した。自らの保身のため手段を択ばない安倍氏への「忖度」は、公文書の改ざんを強いられた近畿財務局職員・赤木俊夫氏の自殺という事態まで引き起こした。安倍氏、菅氏、財務大臣だった麻生太郎氏に、そのことへの反省は見られない。
政治家としての能力・資質という点で、祖父や父の七光りがなければ、安倍氏が総理の座にまで登ることができたとは思えない。
その点では、麻生氏も同じだ。取材記者に対する麻生氏の横柄な態度や暴言の数々は、実にひどいものだった。安倍・菅・麻生の3人によって、日本の政治はどれだけ劣化しただろうか。
歴史に「もし」はないというが、民主党政権が有権者に深い失望をもたらして倒れるのではなく、政権交代の可能性が持続し、政治に緊張感があれば、ここまでの酷い状況にはならなかっただろう。
どんなでたらめなことをしても政権交代は起こらない。有権者は民主党政権の失敗にこりごりしていて、多少の不満はあっても自公政権を選ぶ。そういう驕り、慢心、侮りが安倍・菅政権の増長を生んだ。それは9年経っても支持率が低迷したままの野党各党の責任でもある。
2009年7月に政権交代を実現しながら、民主党政権が3年余で倒れたきっかけが、普天間基地の「移設」問題だった。「最低でも県外」(への移設)という公約をひっくり返した鳩山由紀夫首相(当時)への失望と不信感は、民主党政権の支持基盤を揺るがしていった。
普天間基地「移設」問題=辺野古新基地建設問題は、防衛・外交という領域にとどまらず、敗戦から76年余にわたって築かれてきた日米関係を深く問い返す問題として、政権交代を目指す野党側に現在も重い問いを発している。単なる選挙対策として扱い、かつての民主党政権と同じ過ちを犯すことは許されない。
そのことを考える時、立憲民主党の党首である枝野幸男氏には反省すべき過去がある。
2010年の11月5日、当時の稲嶺進名護市長と比嘉祐一名護市議会議長が東京へ行き、普天間基地を名護市辺野古に移設するとした日米合意の撤回を求める市議会の意見書を民主党政権に提出しようとした。稲嶺市長らは内閣府の政務三役(大臣・副大臣・政務官)に対応を求め、民主党の枝野幹事長代理に仲介を依頼した。
しかし、枝野氏はこれを拒否した。内閣府では政策統括官が対応し、政務三役との面会はかなわなかった。稲嶺市長らは外務省・防衛省も回る予定だったが、同じ対応だということを知り、取りやめた。そして、民主党政権の不誠実な対応に抗議する記者会見を行った。
こういう過去を枝野氏は真摯に反省しなければならない。枝野氏をはじめとした当時の民主党幹部らの対応が、選挙公約は勝つための「方便」にすぎない、政治家は信用できない、という不信感を増幅させた。
それが有権者の政治参加を阻害し、投票率の低下をもたらした。政権交代への期待が大きかっただけに、失望も大きかったのだ。野党各党は9年前の反省に踏まえ、政権を担い、公約を実現する能力を示す必要がある。
沖縄は今、米中対立の最前線に立たされている。それを克服する政治の力が必要だ。それなくして沖縄の発展はない。