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「季刊 目取真俊」36回

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 以下の文章は1月30日付琉球新報に〈相次ぐ米軍、自衛隊事故の背景/「台湾有事」あおり軍事強化/利権に群がる企業と政治家〉という見出しで掲載されたものです。

 

 昨年の11月29日に横田基地所属の米空軍CV-22Bオスプレイが屋久島沖に墜落した。乗組員8人が全員死亡するという大事故であったが、同機は嘉手納基地を目指して飛行中だったという。飛行が継続していれば、沖縄島の沖や嘉手納基地周辺で事故を起こした可能性もあった。そうなれば漁船や貨物船、飛行経路下の住民を巻き込む大惨事となりかねなかった。

 昨年は4月6日に宮古島沖で陸上自衛隊のヘリコプターが墜落し、乗組員10人全員が死亡する事故も起こっている。機体の異常が発生した直後に墜落しており、こちらも飛行場所によっては住民を巻き込むところだった。

 自衛隊と米軍の相次ぐ事故の背景には、東アジアで影響力を強める中国と対抗するため、日米両政府が琉球弧で軍事強化を進めていることがある。

 故安倍晋三元首相が2021年12月1日に台湾で開かれたシンポジウムにオンライン参加し、「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と発言した。

 翌2022年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻し、大国による侵略の不安が高まるなかで、安倍元首相は「台湾有事は日本有事」をくり返した。安倍元首相亡き後もこの言葉は、日本の軍事力強化のために利用されてきた。

 あたかも「台湾有事」が間近に迫っているかのような不安が煽られるなか、岸田文雄首相は2022年12月5日に、2023年度から5年間の防衛費の総額を43兆円とするよう指示した。それまでの中期防衛力整備計画の5年総額27兆4700億円から5割以上増額する突出ぶりだった。「台湾有事は日本有事」という安倍元首相の発言から1年後、日本の防衛予算は1・5倍に拡大した。

 その予算に基づく自衛隊強化の最大の焦点となるのが、台湾に近い琉球列島への対応だ。空白地帯と言われてきた与那国島、宮古島、石垣島に自衛隊基地を建設し、部隊配備を進めてきたことに踏まえ、中国の艦船や基地を攻撃するミサイルの配備がなされようとしている。

 米軍も比重を中東から東アジア・太平洋地域に移し、沖縄でも中国に対抗して離島地域を主軸に活動する第12海兵沿岸連隊(MLR)を昨年11月15日に発足させた。自衛隊と米軍が一体となって琉球列島を軍事要塞化し、中国と対抗する。その動きが加速するなかで事故が連続している。

 屋久島沖でのオスプレイ墜落事故を受け、米国政府は昨年12月6日にオスプレイ全機の一時的な飛行停止を打ち出した。普天間基地のオスプレイも1か月半以上にわたり飛行が止まっている。オスプレイが飛行できない状態で、第12海兵沿岸連隊は「台湾有事」に対応できるのだろうか。

 パイロットはフライトシュミレーターで訓練をしているだろうし、機体の整備も常になされているだろう。しかし、実際に訓練をしないままで実戦に対応できるわけがない。

 今月13日に台湾で総統選挙が行われた。「台湾有事」が強調されるようになってから、総統選挙をめぐる軍事的緊張の高まりが言われてきたと思うが、米軍はオスプレイの飛行停止を続けたままで、特に問題が生じているようには見えない。

 ロシアのウクライナ侵略に続き、イスラエルのガザ侵攻が起こり、中東の緊張が高まっている。そのため米国は東アジアに軍事力を集中できなくなっている。中国にしても不動産危機をはじめ経済停滞が問題となり、台湾に軍事侵攻して得るものはない。当面は現状を維持し「台湾有事」を起こさないことが米中の共通利益だ。

 このような状況を沖縄に住む私たちは冷静に見ないといけない。その上で「台湾有事は日本有事」と煽ることで、利益を得ているのは誰か、彼らの思惑を考える必要がある。

 2023年11月23日配信の日刊工業新聞電子版に〈三菱重工が防衛事業売上高1兆円に、政府予算増で大幅受注増へ〉という見出しの記事が載っている。三菱重工はここ10年ほど防衛事業売上高が5000億円弱で推移してきた。政府の防衛予算増を受けて、それを2027年3月期には2倍の1兆円規模に拡大する計画を明らかにした、という内容である。

 三菱重工は米国企業のライセンスに基づき地対空誘導弾・パトリオット(PAC3)を生産している。昨年12月22日に日本政府が防衛装備移転三原則と運用指針を改定したことを踏まえ、PAC3を米国に輸出する計画も示している。

 オスプレイや無人機グローバルホーク、トマホークミサイルなど日本政府は米国から武器を爆買いしている。同時に、日本の軍需産業にも巨大な利益をもたらそうとしている。「台湾有事」を煽って防衛予算を1・5倍に増やした裏には、軍事利権に群がる政治家と企業の癒着、利益拡大がある。

 自民党のパーティー券を企業が買うのは、自らに利益をもたらす政治家がいるからだ。庶民が日々の生活にどれだけ困り、苦しもうと、自分たちは裏金を作って税金も納めない。こんな政治家たちが、私たちに危機をもたらしているのだ。

 


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