アニー・ジェイコブセン著/加藤万里子訳『ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA』(太田出版)に次の記述がある。
〈第二次世界大戦中、ひとり娘がまだ幼かったころ、フォン・ノイマンは日本の原爆投下地域の決定に関わった。しかし、それよりももっと驚くべきことは、民間人の殺傷率を最大限に高めるために、彼が広島と長崎上空で原爆を爆発させる位置を正確に計算したことだろう。高度約五五〇メートルーーそれがフォン・ノイマンが導き出した答えだった〉(43ページ)。
フォン・ノイマンはプリンストン高等研究所で教職員として働き、アインシュタインと同僚だった。一方で、アメリカ空軍のシンクタンクであるランド研究所で非常勤コンサルタントを勤め、20世紀最高の頭脳とも言われている。そういう人物が広島・長崎の原爆投下で〈民間人の殺傷率を最大限に高めるために〉爆発させる高度を計算していたのだ。
いま私たちが使っているインターネットや全地球測位システム(GPS)、ドローンはDARPAが軍事目的のために開発したものだ。ベトナム戦争で使用された枯葉剤や民衆の心理分析、ステルス技術、生物兵器ほか、DARPAが開発した軍事技術は戦争の形態を変えてきた。
いまや遠隔操作された無人機が民間人を巻き添えにして敵を殺傷するのは普通となり、人工知能を持ったロボット兵器や昆虫サイズの兵器の実用化が迫っている。
こういう本を読むと、科学者の良心や倫理を問うこと自体むなしくなるが、軍事技術の開発や武器の生産を規制し、監視するのも市民の力でしかできない。そのためにもまずは、何が起こっているのかを知らなければならない。新たに開発された米軍の兵器は、いずれ沖縄にも持ち込まれるのだ。