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石原慎太郎東京都知事の妄言と醜態

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 石原慎太郎東京都知事が、尖閣諸島を東京都が購入する、と米国ワシントンで発表した。米国保守系シンクタンク・ヘリテージ財団における講演会でのことだ。にわかにマスコミは大騒ぎして、県内紙まで自治体首長に緊急アンケートを採っているのだが、石原知事と地主の交渉の経緯など事実関係をもっと取材し、石原知事の意図、行動の背景を調査・分析することに、マスコミはまず力を入れるべきではないだろうか。

 この問題を考えるうえで大切なのは、政局がらみで内向きの議論にならないことだ。外の視点から見れば、今回の石原発言はどのような意味を持つのか。そのことを検証することが重要だろう。その点で、石原知事は大きな誤りを犯している。日本政府が公式見解として、尖閣諸島に関し領土問題は存在しない、と明言しているにもかかわらず、領土問題は存在している、というメッセージを諸外国に発しているからだ。
 東京都は尖閣諸島から遠く離れ、歴史的に関わりが薄い。そういう島々の土地を都が購入すると、この時期にどうして突然、石原知事が米国で発表するのか。石原知事が乗り出さなければいけないほど、日本にとって尖閣諸島は不安定な状態なのか。中国の影響力はそれほど拡大しているのか。日本政府の公式見解とは裏腹に、尖閣諸島の実効支配は危うい状態にあるのか。石原知事の発言は、日本の周辺国をはじめ諸外国にそのような疑問を抱かせるものだ。
 石原知事は、領土問題という慎重かつ丁寧に扱うべき問題について、みずからの政治的思惑から派手なパフォーマンスを演じ、都民や都議会にも知らせずに得手勝手な「外交」を行っている。国に買い上げさせるのが目的なら、周辺国を刺激しない慎重なやり方もあったはずだ。しかし、石原知事はあえて挑発的なやり方を選んでいる。もっとも、中国政府からすれば、尖閣諸島が領土問題としてあることを、石原知事が世界に宣伝してくれたことになる。
 中国側はこれまで、琉球国に派遣された冊封使が残した記録から先占権を主張し、尖閣諸島を自らの領土としてきた。それに対し、日本の強みは実効支配していることにあるのだが、石原知事は都の購入を大々的に打ち上げることで、現時点では実効支配が脆弱なものであるかのような印象を広める愚を犯している。

 尖閣諸島に関しては、ベトナムやフィリビンなど中国との領土問題を抱え、東シナ海、南シナ海における中国の軍事力、権益の拡大に危機感を持つ東アジア諸国との連携、協力体制作りが、日本にとって重要な課題と言われてきた。領土をめぐって二国間で対立する時、周辺諸国の理解と支持は大きな力となるからだ。そのための地道な作業を現場で積み重ねている人達が大勢いるだろう。
 仮に東京都が尖閣諸島を購入しても、そのような外交活動はできない。むしろ懸念されるのは、実際に東京都が購入し、石原知事が尖閣諸島に上陸するなどのパフォーマンスをやってナショナリズムを煽ることがあれば、日本に侵略された歴史を持つベトナムやフィリピンなどの東アジア諸国が警戒心をいだき、日本に距離を置きかねないことだ。それを喜ぶのもまた中国政府であり軍部である。
 石原知事や橋下徹大阪市長など、右翼・タカ派政治家たちの威勢のいい発言やナショナリズムを煽るパフォーマンスは、日本国内では通用しても、東アジア諸国には通用しない。河村たかし名古屋市長が南京大虐殺を否定し問題となったが、政治家が歴史認識をめぐる問題発言を反省もなく繰り返しながら、北朝鮮の人工衛星打ち上げに際しては、中国の働きかけをあてにする。そういう厚顔な日本の対応を、東アジア諸国はどう見ているか。

 沖縄は先週、北朝鮮の人工衛星打ち上げを利用したPAC3配備で揺れた。先週末から今週にかけては、その撤収作業が連日報じられている。それが終わらないうちに、今度は石原発言によって尖閣諸島が注目され、「領土問題」として再び先島地域に関心が集まっている。
 中山義隆石垣市長は、以前から話を聞いていたとし、尖閣諸島の「共同所有」の意思を示すなど、石原知事に積極的に応えようとしている。その対応ぶりを見ると、PAC3配備に連続する石原発言のタイミングは偶然とは思えない。今回の石原知事による東京都の尖閣諸島購入問題は、先島への自衛隊配備の地ならし第2弾の意味も持っている。
 しかし、尖閣諸島問題は、先島に自衛隊を配備し、中国に対抗する軍事力を強化すれば、解決できるというものではない。ベトナムやフィリピン、インドネシアなど東アジアの諸国と連携を取りつつ中国と交渉を重ねるという外交能力こそが重要となる。その時に問われるのは、日本の侵略戦争による加害の歴史を反省し、覇権主義や排外的ナショナリズムに抑制的であるという外交姿勢を示すことだ。
 悪意と侮蔑を込めて中国を「シナ」呼ばわりする石原知事に、東アジア外交などできはしない。石原知事の発言を持てはやし、共同歩調を取る政治家も同じである。むしろ、尖閣諸島をめぐる問題をこじらせ、日中間の対立を激化させる結果にしかならないだろう。その結果として東シナ海で軍事的緊張が高まれば、実害を被るのは東京都民ではなく沖縄県民である。

 沖縄側は石原知事に乗せられることなく、琉球国以来の独自の歴史をふまえて、尖閣諸島問題に対処すればいい。本来は沖縄県が所有すべき島であり、県として購入運動を進めれば、賛同する県民は多いはずだ。沖縄も東京都に土地を所有しているから東京都が尖閣諸島を購入するのも問題ない、個人よりも東京都が所有した方が安心、などと安易に言っていると、大きな後悔をすることになる。
 石原知事がやろうとしているのは、どこにでもある島、土地の購入ではない。一つ扱いを間違えば一触即発の事態となりかねない「国境の島」を、自らの政治運動の道具として利用しようとしているのである。中国と対立を引き起こすことで排外的ナショナリズムを煽り、日本の政治を大きく右旋回させようという意図が透けて見える。
 それはまた、中国との軍事的対立を作り出し、軍需産業の利益を上げたい米国保守グループの意思でもあるだろう。ヘリテージ財団における石原知事の講演は、かつて『NOと言える日本』という本を共同執筆した右翼政治家が、米国保守の力を後ろ盾に中国に吠えているにすぎないことを自己暴露している。何という醜態だろうか。

 


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