13日午前に行われた北朝鮮の人工衛星打ち上げに際して、全国瞬時警報システム(Jアラート)が作動しなかったことに反発が強まっている。24時間態勢で緊張を強いられた自治体職員からすれば、当たり前の反応だろう。
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2012-04-14_32462/
米国からの情報提供により自衛隊が警戒態勢をとる一方で、行政、住民に対してはロケット発射後も、正確な情報が提供されないままとなった。これを民主党・野田政権の不手際、未熟さに矮小化し、別の政権ならうまく対応できるかのようにとらえるなら、大きな間違いだ。むしろ、有事=戦争状態において情報は軍事優先となり、民間人の安全は二の次にされるということが、今回の「ミサイル発射」騒ぎで露呈したととらえた方がいい。
実際に有事=戦争となれば、マスコミの報道・取材は大きく規制される。今でさえ実質的に「大本営発表」報道が行われている。有事=戦争の時には政府、軍隊を批判する記事や評論、コメントは封殺され、日本の大多数のマスコミは積極的に情報統制に協力するだろう。
正確な情報を与えられないまま、住民が戦争に協力させられ、犠牲を強いられる。今回の沖縄における自衛隊と行政の動き、マスコミの報道姿勢によって明かとなったのは、67年前と変わらない構造が沖縄で再現されつつあるということだ。飛来するのがあたかも弾薬を積んだミサイルであるかのように描き出し、脅威を煽る。そうやってPAC3を沖縄各地に配備し、自衛隊の先島配備への地ならしが進められた。
八重山地区における社会科公民教科書の採択問題や第32軍司令部壕の説明板問題も、そのような地ならしの一環であるのは言を待たない。今回のPAC3沖縄配備をめぐる事態から、あらためて二つの問題を検証していく必要がある。特に第32軍司令部壕の説明板問題では、沖縄の自衛隊関係者が県当局に〈器物損壊する〉という脅しをかけ、積極的に動いていたことに注目したい。
元自衛隊員で沖縄県隊友会(自衛隊OB会)の副会長を務めたこともある奥茂治氏が、以下の文章を自らのフェイスブックとツイッターに載せている。2011年12月10日の記述である。
〈沖縄戦32軍司令部壕説明看板の記述から壕内に慰安婦が雑居していた、また日本軍によりスパイ視された付近住民の虐殺が行われた。を削除するように求めて意見書を11月25日に沖縄県に提出した、昨日はもし設置した場合は器物損壊する旨を伝えて県会議員の先生方に協力を要請してきました〉
http://www.facebook.com/gorugo13jpn
http://twitter.com/#!/gorugo13jpn
県に意見書を提出し、県会議員に要請するのは奥氏の自由だ。しかし、自らが求める文言の削除がなされずに説明板を〈設置した場合は器物損壊する〉というのは、申し入れや交渉、要請活動の域を超えており、暴力的破壊をちらつかせた県への脅しと言っていい。
私が電話で話した説明板の担当者は、「慰安婦」「住民虐殺」の記述を削除した根拠の一つとして、昨年11月28日にチャンネル桜で放映された番組中の伊波苗子氏の証言をあげていた。奥氏が県に意見書を提出したのは、放映3日前の11月25日である。チャンネル桜の放映後に県の担当課には、記述削除を求める電話やFAX、メールが相次いだ。そういう中で12月9日に奥氏は、〈もし設置した場合は器物損壊する旨を伝えて〉県会議員に削除の協力要請をしている。
実は11月28日のチャンネル桜の番組で紹介された伊波氏の証言は、奥氏がインタビューして録画したビデオテープをチャンネル桜に提供したものなのである。同番組ではそれだけでなく、奥氏が11月25日に県に提出した意見書を画面に提示しながら、説明板担当課の電話・FAX番号、メールアドレスを紹介して、意見を送るように呼びかけている。以下の大高未貴氏の発言(6分過ぎ)を参照のこと。
http://www.youtube.com/watch?v=j4LCYetXtF4&feature=relmfu
これまで本ブログで、第32軍司令部壕に関連する「慰安婦」と「住民虐殺」についての資料を紹介してきた。それを読んだ方なら、この大高未貴という女性が、沖縄戦および第32軍司令部壕に関して、いかに無知であるかが分かるだろう。大高氏は伊波氏の証言を絶対化し、他の資料を検証もしないで、訳知り顔で語っているだけである。
チャンネル桜の映像と奥氏のフェイスブックなどを見れば、第32軍司令部壕の説明板問題は、沖縄在住の元自衛隊員・奥茂治氏がチャンネル桜と連携し、伊波氏の証言映像を使って視聴者から沖縄県の担当課に抗議の電話・FAX・メールを送らせ、その上で「器物損壊」という脅しをかけて引き起こしたものであることが分かる。
仲井真知事や県幹部は、単純に脅しに屈したというよりも、奥氏らの動きを都合よく利用したと考えられる。沖縄において自衛隊強化を進めるためには、日本軍のマイナスイメージを薄める必要がある。日本政府の意に反することを避け、かつ琉球王朝の華やかさを強調して首里城を観光客誘致の場とし、悲惨な沖縄戦の実態や日本軍の否定面は前面に出さないという思惑から、チャンネル桜や奥氏の動きを口実として、仲井真県当局は司令部壕説明板から「慰安婦」「住民虐殺」の記述を削除したのである。
沖縄においては、沖縄戦の歴史認識の問題と自衛隊強化の問題が直接的に結びついている。奥氏が副理事長を務めている南西諸島安全保障研究所は、2005年に下地島空港に自衛隊誘致の動きが起こったとき、そのきっかけを作った団体である。
http://www.cosmos.ne.jp/~miyako-m/htm/news/050323.htm
第32軍司令部壕説明板問題の背景には、沖縄における自衛隊強化、先島への部隊配備に向けた地ならしの一環として、沖縄戦の史実を歪曲しようとする自衛隊関係者や県内外の右翼勢力の動き、それを利用した仲井真県当局の動きがある。
それは大江・岩波沖縄戦裁判の頃から続いている動きの、形を変えた現れである。5年前に雑誌『世界』2007年7月号に載せた文章だが、以下の文章も参考にしてほしい。
http://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/49a7795bfe5628857f5f5fdcd30ddf47
http://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/9959eca0b2f5dde7a4763ec19878674c
http://blog.goo.ne.jp/awamori777/e/98fb49d8895ee217b6bb282574693f37
なお、「ある教科書検定の背景」は岩波書店編『記録・沖縄「集団自決」裁判』に補足を加えて集録されている。